松本さんたちの調査によれば、「不妊治療をしていることを職場の誰にも話していない」という人は約25%と、4人に1人だ。理由を尋ねたところ、「派遣の更新に影響するから」という声も上がったそうだ。

 企業や職場が期待するのは男性であれ女性であれ、バリバリ働いてくれる人材。産休・育休の制度は整えていても、「不妊治療で仕事を休まれてはたまらない」というのが本音なのかもしれない。

「どこも余裕がないのが現実ですから、当然です。とはいえ、一方で不妊に悩む人が増えているのもまた、現実なのです」と松本さん。

 産みたいけれど、せっかく築いたキャリアを手放したくない――治療に二の足を踏んでいる人はごまんといることだろう。でも、女性の卵巣の働きがピークに達するのは27歳。その後は徐々に老化していく。仕事に踏ん切りをつける気になったときには、すでに妊娠しづらい年代に達しているケースが多いんだ。

「女性手帳」だけでは解決できない
矛盾だらけの社会システム]

 このように、不妊をめぐる日本社会の事情は矛盾だらけだ。

 医療技術が進歩すればするほど、治療の費用はかさんでいく。その負担に耐え続けられるカップルは、はたしてどれくらいいるんだろう?医療のレベルがどれほど上がったところで、利用できなければ意味がないよね。

 企業も葛藤を抱えている。ワークライフバランスをうたう一方、フルに働けない人材を「戦力外」と見る会社は少数派ではないだろう。とはいえ、男性も女性も同じように、「家庭の事情」を抱えている時代だ(なお、不妊の原因が男性にあるケースは40%と言われている)。全員が昔の企業戦士のようにバリバリ働けるわけじゃない。

 今、政府が導入を検討している「女性手帳」のニュースで、巷は話題騒然となっている。10代以上の女性を対象に、身体のメカニズムや将来設計について啓発しよう、というものだよ。もちろん、ねらいは少子化に歯止めをかけること。

 でも、いくら「早く産まなきゃ」「不妊治療を始めなきゃ」と思ったところで、医療や企業の仕組みが今のままじゃ、効果は望み薄だ。みんなが大人になったとき、産みたい人が産めるような社会にするには――。この国のもっと根本的なシステムを見つめ直したほうがよさそうだ。