マイクロソフトとOpenAIの関係は
独占禁止法違反の可能性も?

 ただし、FTCは形式的な企業買収だけでなく、市場競争に重大な影響を与える可能性のある取引や提携関係全般を調査対象としており、このまま見過ごされるとは限らない。実際、FTCはマイクロソフトとOpenAIのパートナーシップ締結に関連して独占禁止法違反の可能性を調査していると報じられている。マイクロソフトはOpenAIに総額130億ドルを投資し、49%の株式を保有している。この金額は通常の企業買収の閾値(1億1950万ドル)を遥かに超えていることから、FTCはこの大規模な投資が市場競争に与える影響や不公正な利点があるかどうかを確認している。

 また、マイクロソフトはOpenAIの取締役会に議決権のない席を持ち、同社の収益の大部分を受け取る権利を有している。このことは形式的な買収ではないものの、実質的な支配力を持つ可能性があるのではないかと懸念されている。

書影『生成AI・30の論点 2025-2026』(日本経済新聞出版)『生成AI・30の論点 2025-2026』(日本経済新聞出版)
城田真琴 著

 EUでも、欧州委員会がマイクロソフトとOpenAIの提携関係について競争法違反の可能性について調査を開始していると報じられている。

 こうした状況から、今回の新たなスキームについても、規制当局が実質的な買収であると判断した場合、新たな規制を導入する可能性がある。特に、スタートアップの技術と人材の引き抜きが市場競争に与える影響について、今後さらに厳しい審査が行われる可能性は否定できない。この新しいスキームが今後も拡大するかどうかは、規制当局の対応に大きく依存するといえるだろう。

 仮に規制が強化される場合、大手テック企業はさらなる対策を講じる必要が生じる。たとえば、技術や人材の獲得に対してより柔軟な契約形態を導入するなど、規制を回避しつつ、スタートアップとの取引を継続するための新たな戦略を模索することになるだろう。

結論
 AIスタートアップと大手テック企業の間で進行中の新しい取引スキームは、M&Aに代わる新たな手法として注目されている。このスキームは、規制リスクを回避しつつ、技術と人材を迅速に獲得する手段として、大手企業にとって非常に有効である。

 一方で、スタートアップにとっては、その独立性や将来性に対する挑戦ともなる。このトレンドがどのように進化するかは、規制当局の動向と市場の変化にかかっている。今後も、テック業界におけるAI技術の覇権争いは激化するだろう。その中で、大手企業とスタートアップの関係性は、ますます複雑かつ戦略的なものとなっていくことが予想される。