
米国の景気鈍化や需要減少懸念から原油相場は足元で下落している。朝令暮改のトランプ政権の関税政策、ガザやウクライナでの停戦交渉など不透明感の材料が多く、相場の先行きは方向感が出にくい展開となりそうだ。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)
1月は高値をつけた後トランプ政権の政策期待と
中国景気の減速懸念で下落
原油相場は、1月中旬に米国産のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)で1バレル当たり80ドル強まで上昇したが、3月上旬には65ドル台まで下落した。
原油相場の変動材料を、1月半ばに昨年7月以来の高値をつけたころから振り返ってみると、1月10日は、バイデン米前政権がロシアの石油・ガスを標的とした広範な制裁措置を発表したことで原油の上昇幅が大きくなった。WTIは3.6%高、欧州北海産のブレントは3.7%高となった。
13日は、前週に発表された対ロシア制裁の強化措置によって、インドや中国が石油の調達先を中東、アフリカ、米州に変更すれば、石油需給のタイト化や輸送費の上昇につながるとの懸念が相場を押し上げた。
15日は、EIA(米エネルギー情報局)の週次統計で原油在庫の減少幅が市場予想を上回ったこともあり、原油の上昇幅が大きくなった。WTIは3.3%高、ブレントは2.6%高だった。一時、WTIで80.77ドル、ブレントで82.63ドルと昨年7月以来の高値をつけた。
一方、同日にイスラエルとハマスは、ガザでの停戦に合意し、供給懸念は幾分和らいだと受け止められ、その後は下落傾向に転じた。
21日は、20日に就任したトランプ米大統領が国家エネルギー非常事態を宣言し、化石燃料の増産観測が強まった。また、フーシ派がガザ停戦を受けて商船への攻撃をイスラエルと関連のある船舶に限定すると報じられて供給懸念が後退した。
27日はAI(人工知能)を巡る懸念が原油相場にも波及した。
中国新興企業のディープシークによる生成AIが安価で高性能との見方が台頭し、AIブームをけん引してきた米ハイテク企業の優位性への疑念から投資家のリスクオフ姿勢が強まったことや、ディープシークのAIはエネルギー効率が高いとの評価があることなどから、原油が売られた。
また、中国国家統計局が発表した1月の製造業PMI(購買担当者景況指数)が下振れたことも売り材料だった。
29日は、米EIAの週次統計で原油在庫の増加幅が市場予想をやや上回ったことを受けて、原油は反落した。この日、FOMC(米連邦公開市場委員会)で政策金利の据え置きが決定されたが、市場の反応は限定的だった。
次ページでは、2月以降の相場を検証し、原油相場の先行きを予測する。