「新入社員、全員に配りました」「全社員への課題図書にしています」
新年度を迎え、そんな声が多数寄せられているのが、書籍『ベンチャーの作法 -「結果がすべて」の世界で速さと成果を両取りする仕事術』です。転職エージェント「キープレイヤーズ」代表の高野秀敏さんが、1.1万人以上のキャリア相談、4000社以上の採用支援の経験から、ベンチャー流の「結果を出す働き方」をまとめました。“きれいごと”抜きの仕事論に、社員や経営者、ベンチャーや大企業を問わず、刊行直後から多数の感想が投稿される異例の反響となっています。
サステナビリティ領域で急成長中のベンチャー、Booost株式会社の代表取締役・青井宏憲さんも、本書に大いに共感し、全社員に紹介した経営者のひとり。この記事では、著者の高野さんと一緒にお話を伺いました(ダイヤモンド社書籍編集局)。

指示を出しても動かない「ベテラン社員」たち…。悩めるリーダーを救った「1冊の本」とは?Photo: Adobe Stock

今が絶好の「攻めどき」なんです

――御社はこれまで、どのような事業をされてきたのでしょうか?

青井宏憲(以下、青井)「Booost」は2015年に創業した、サステナビリティ領域のベンチャー企業です。近年、企業経営において「SX(Sustainability Transformation)」という言葉が注目を集めています。これは、企業の成長と社会課題の解決を両立させる変革を指します。弊社はまさに、このSXの実現を支援するためのテクノロジーを提供してきました。

 具体的には、企業のサステナビリティ関連財務情報(温室効果ガスの排出量や女性管理職比率など)のグローバル連結での集計から分析、開示までを一気通貫で行い、財務情報同様に経営に活用できるシステムを開発・提供しています。現在、社員数は約100名。お取引先は大手企業を含め約2000社にのぼります。

高野秀敏(以下、高野)いまは「攻めどき」ともおっしゃっていましたね。

青井 はい。背景には、国の制度的な後押しがあります。たとえば2023年3月期からは、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」が明記されるようになりました。2027年3月期からは、時価総額3兆円を超える東証プライム上場企業に対して、サステナビリティ関連財務情報の開示義務の本格化が始まる見込みです。

 その流れの中で、私たちのように知見と技術のある企業が、大企業のパートナーになれる機会は確実に増えています。だからこそ、ここを「攻めどき」と捉え、より多くの企業に価値を届けていきたいと考えているんです。

採用した「大手企業出身者」に感じた「ある違和感」

――一方で、その「攻め時」に感じた課題もあったと。

青井 そうなんです。より大きな市場に挑むには、我々のターゲットである時価総額5,000億円以上の大企業に価値を届ける必要があり、シリーズA以降、大企業出身者の採用を加速させてきました。専門性の高いスキルと経験を持つ、まさに即戦力の方々です。

 ところが、いざ一緒に働いてみると、20代からベンチャーを創業してきた私からすると、スタートアップ人材とは違うある違和感を覚えました。

高野 どんな違和感ですか?

青井 スピード感が、圧倒的に違ったんです。
 
大手企業の出身者は、じっくり考えてから行動する傾向があるように感じます。もちろん、それは大企業では非常に大切なことなのですが、ベンチャーの現場では、それがかえって足かせになることもあるんです。

 大企業出身のメンバーの中には、私より経験も豊富で、年齢が一回り以上上の方もいますし、バックグラウンドも素晴らしく当然リスペクトはしています。ただ、私が直接「こうしてほしい」と指示を出しても、なかなか動いてくれない。気づけば戦略だけを延々と練っているような状況に、もどかしさを感じました。

 そうした価値観のギャップを埋めるために、入社前の面談では「なぜベンチャーなのか」「なぜこの市場なのか」を確認し、こちらも「その中で自社はどんな企業なのか」「どんな戦略を描いているのか」を言語化して伝えてきましたが、座学だけでは限界があると感じていました。

社員には言いづらい「経営者の本音」を代弁してくれた

青井 そんなときに出会ったのが、『ベンチャーの作法』でした。
 書店の店頭でタイトルを見て、即買いしました。
 そして読んでみて「まさにこれだ」と。自分がモヤモヤと感じていたことが、すべて言語化されていたんです。

――それで、社内にご紹介くださったのですね。

青井 はい。すぐに全社員に配布しました。
 毎月新しく入社するメンバーにも必ず渡しています。今では“社内バイブル”と言ってもいい存在です。

 弊社はこの一年で社員が40人ほど増えました。一人ひとりと丁寧なコミュニケーションの時間をとるのが難しくなるなか、私が社員に伝えたいことを体系立てて言語化してくれているこの本は、本当にありがたかったです。

 それに、最近のコンプライアンス意識の高まりの中では、経営者として本音では思っていても、社員に直接伝えるのが難しいこともあります。「つべこべ言わずにやってほしい」といった本音を、著者の言葉でしっかり代弁してくれているのが嬉しいところです。

高野 昔なら「いいからやれよ」と言えたことも、今はそうもいきませんよね。
 私は若手社会人時代、組織や上司の指示に納得できなくて、よく反抗していました。あの頃にこういった本があれば、もうちょっと素直に上司や経営陣の話を聞けていたんじゃないかな。

 指示の裏にある背景を一人ずつ丁寧に説明する時間なんて、偉い人たちにはありません。でも、その裏には必ず合理的な理由があります。それがわかると、「なるほど」と納得できて、結局、みんなにとって働きやすくなる。
 その「溝」を埋めたい気持ちで本を書いたので、青井さんのように活用いただけているのは著者としてとても嬉しいですね。

青井宏憲(あおい・ひろかず)

Booost株式会社 代表取締役
2010年に東証一部コンサルティング会社に入社し、スマートエネルギービジネスチームのリーダーを経て、2015年4月に企業価値向上をワンストップで実現するSustainability ERPの開発運営を行う当社を設立。グローバル85カ国19万2,000拠点以上でプラットフォームが活用されている。スマートエネルギー全般のコンサルティング経験が豊富で、脱炭素化のためのソリューションとして、創エネ、省エネ、エネマネにも精通。2025年4月1日、Booost株式会社へ社名変更。

(本稿は、書籍『ベンチャーの作法』に関連した書き下ろしです。書籍では「なにがあっても結果を出す人の働き方」を多数紹介しています。)