150年目が来たときには、長らく馬車を1頭で引いてきた馬のように、バタンと倒れて終わりだ。あとは証拠を固めるだけだった。

「自分を実験台に自分で手術」リッドストンが実行した異常すぎる「移植手術」の実態同書より転載

 その一方で、若返り術のもうひとつの巨星、ウィーンのドクター・オイゲン・シュタイナッハ(編集部注:精管手術による「若返り術」の大家)はまた別の聖杯を追求していた。

 生物学研究所の教授であるシュタイナッハは、フロイト、マーラー、ライヒ、ウィトゲンシュタインとともに町で最も名誉ある団体に身を置き、「ジュピターの再来を思わせる風貌で、見事な赤褐色の顎髭を生やした堂々たる人物」と同僚から評される男でもあった。

 自己中心的で短気、心のなかでつねに妄想をくすぶらせていて、それが年々ひどくなっていく。乗馬に情熱を注ぎ、血のように赤い執務室を構え、生命の鍵を握っていると、街で彼を指さして拍手を送った人々はそう信じていた。

 ヒツジやサルの睾丸を移植したヴォロノフや、自分をふくめ人間に人間の睾丸を移植したリッドストンと比べると、シュタイナッハのやり方は単純だった。

 マウスに対して行った実験により、若さは「管を紐でくくる」すなわちパイプカットによって回復できるという結論を出した。「射精に伴う分泌作用」を堰き止めれば、分泌物が全身に逆流し、一種の温室効果により男性性が強化されるという(後年には、消費されなかった精液は尿中に放出されることが明らかになる)。

 ライバル同様、彼も証拠を出した。すなわち、「患者は若さとエネルギーと元気が全身にみなぎるのを感じた。それ以前とはがらりと変わって、現在彼は人生劇場の終盤にあって、まるで冒頭にもどったかのようで……」といっている。