エジプトで、副王アッバース・ヒルミー2世の侍医として仕えていた頃に、王のハーレムに所属する宦官を数名治療していた。
彼らはたいてい肥満して病気がちだった。「若年から白髪が生え、老齢に達するのはまれである……こういった悲惨な症状の原因は、睾丸がないことに直結しているのだろうか?」とヴォロノフは書いている。
もしそうであるなら、一般人のいわゆる老化は、おそらく生殖腺の摩耗によって引き起こされ──それは非常に局所的なものであるから、回復させるのも難しくないだろうと彼は考えた。
それでテストをしてみた。初期の実験で、子ヒツジの睾丸を年老いた雄ヒツジに移植したところ、老いたはずのヒツジの毛がふさふさと増えて、再び性欲が湧いてきたのがわかったと彼はいう。
猿の睾丸を移植すれば…
150歳まで健康に生きられる?
この研究が第1次世界大戦によって一時中断されると、ヴォロノフはあちこち旅してまわって、さまざまな負傷者を治療しながら、患者自身の骨をつかう「自家移植片(移植のために同一個体からとった組織片)」をつかう技術(ほかでは数十年前から安全につかわれている技術)を編み出し、火傷した皮膚を胎膜と取り替えた。
しかし、それからまもなく動物界から呼び出しがかかる。今度はヒツジではなかった。
さらに実験を推し進めた後で、ヴォロノフは断言した。「思い切っていってしまうと、肉体のたくましさも、臓器の質も、サルのほうが人間より優れている。しかもサルには、人類の多くが苦しんできた身体的欠陥及び遺伝性や後天性の病気が発生しないのである」
ヴォロノフの方針は明確だった。1914年、まずはサルをドナーにして、その甲状腺を知的障害を持つ少年に移植した。手術は大成功だと報じられ、「少年の知能は正常になり、軍隊でも働けるほどだった」という。
いまやヴォロノフは確信した。霊長類の下位に属する動物の生殖腺は、永遠の若さの素とまではいわずとも、それに近いものを持っている。彼の計算では、サルの睾丸は、人間の男性に150歳まで健康で活動的な人生を送らせる力がある。