判断の甘さが目立つ

 目立つようになったミスの正体は、判断の甘さだという。

「読解力のない部下もいて、それも困っているのですが、彼はそういう訳ではなく、資料も人の話もスムーズに理解できるタイプなので、資料や情報を読めないわけはないんです。それを読めば、どんな点に気をつけなければいけないとか、自分が進めようとしているやり方にはどんなリスクがあるかとか、すぐにわかるはずなのに、気にせず進めてしまうんです。思い込みが激しいところがあるように思います。それが判断ミスを引き起こしているのではないかと」

 読解力はあるのに、思い込みの激しさが判断ミスにつながっているのでは?という指摘だ。

「この前も、判断を誤ったまま仕事をどんどん進めてしまったことがあって……それはまずいということを示すデータや情報があったし、以前のように先輩がついていたら方針を変更していたはずなのですが、なぜかそのまま進めてしまったんです。データや情報を読めないわけがないのに、どうしてこのまま進めたらまずいということに気づかず強引に進めてしまうのか、それが不思議なんです」

 普段一緒に仕事をしている先輩たちに聞いてみると、「こういう情報もあるからよく検討してみて、といって資料を渡したから、考え直すだろうと思っていたら、まったく気にせずに突っ走っちゃったんです」という。「それで再度忠告したら、そういう情報をいちいち気にしてたらキリがないので、って言われちゃいました」

 その話を聞いて、問題の所在が見えてきた。

都合の悪い情報には目をつむる、確証バイアス

 その話を聞いて、この経営者は本人に直接、なぜ警告となるデータや情報があるのに強引に進めたのか尋ねてみたという。その回答は、とんでもないものだった。

「いやあ、参りましたよ。『僕は、そういう情報は信じないようにしてるんです。何をするにも自分を信じることが大事だと思うので』っていうんですよ」

「そういう情報は信じない」、つまり、自分のやり方や方針に都合の悪い情報は信じない、無視するということだ。こうした強引さがある限り、つい判断が甘くなり、暴走してしまう恐れがある。それが取り返しのつかない損失や、取引先の信頼喪失につながりかねない。

 これは、認知バイアスの一種である「確証バイアス」の問題だ。