人の本能は生まれながらに決まっている……?

早稲田大学大学院経営管理研究科、早稲田大学ビジネススクール教授
慶應義塾大学卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事後、2008年 米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(博士号)取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。2019年より教授。専門は経営学。国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。メディアでも活発な情報発信を行っている。
森岡 知的好奇心もふくめて、人間はどの欲求が強いのか、生まれながらに遺伝子で決まっているのかなと思うんですよね。言うまでもなく、社会的に良くないことや法律に違反することをやったらダメなんですが、たとえば性欲起因の問題が起こったときにみんなで袋叩きにするケースってあるじゃないですか。周りから見たら「なんでそんなことするの」と思うような行動をとってしまうのも、本能に突き動かされる部分があるんじゃないかと、つい思ってしまうんですね。
入山 たしかに、そういう面がありそうですよね。
森岡 私の場合はたまたま、考えることへの欲求が異常に強い一方で、お酒も女性も賭博もタバコも我慢しなくてよいので、もし写真週刊誌に追いかけられても何も出てこないようなつまらない人生なんですよ。「どうやってストレスを解消してるんですか」と聞かれても、考えている間は楽しくて、我慢もしていないんですよね。
ただし、食欲だけはすごく旺盛なので、ダイエット中に食べたいものを我慢したり、欲に勝てないときの感覚はわかる。だから、本能的にもっている欲を抑えきれない、それが困難な事情っていうのはあるかもしれないし、仮に社会的・道義的に許されない場合も、みんなで寄ってたかって袋叩きにするのは違うんじゃないかなと思ってしまう。
入山 すごくわかります。一般とは次元の違う欲求をもっている人はいますからね。
森岡 もちろん、生まれる前に決まってた本能のせいだと開き直って、規範から外れていいということではありません。だけど、人間が自分の本能にあらがうというのは、身長150センチの人に180センチになってこい、というのと同じぐらいの難しさが実はある、と思うんですね。
先ほどお話しされたダークサイド・モチベーションについて、あまり意識したことはありませんでしたが、言われてなるほど、と思いました。
入山 私が言うのも偉そうですが、森岡さんが生まれたときから与えられていた本能というか天賦の才は「知的好奇心の強さ」「考え続けられる力」ですよね。
森岡 新しいことがわかると、嬉しいし、楽しいです。いろいろなことに興味がわくし、一人でじーっと考えるのに道具もいらないので、一生暇にならないと思います。
入山 私は森岡さんのように突き詰める突破力はなくて、浮気性なんですけど、やっぱり暇になったことはなくて。ものすごく幅広く俯瞰して、全体のメカニズムを知って、それを伝えるのが好きなんです。拙著『世界標準の経営理論』もまさにそういう本で、経営学って全体でどういう構造なんだ、というのをまとめました。
森岡 それが今、ものすごく求められてると思いますね。世の中の「あること」と「あること」がどう構造的につながって、どう動いているのか、ということこそ、一番知らなきゃいけないことだと思います。入山先生の『世界標準の経営理論』もデスクに置いて読ませていただいてますが、素晴らしいですよね。そして分厚い(笑)。
入山 「鈍器本」ブームの先駆けといわれています(笑)。
【次回は5月12日に【森岡毅×入山章栄対談(6)】を公開予定>
――本対談シリーズの過去掲載分はこちら――
・第1回 「テーマパークが好きな人」と「テストステロン」の切っても切れない深い関係とは?
・第2回 「結果が出る人」と「うまくいかない人」の“努力の中身”の決定的な違い
・第3回 スマホゲームに“限界”まで課金してわかったこと 森岡流の消費者理解
・第4回 アニメのファンミーティングに潜り込んでわかったこと 森岡流の消費者理解