バスやタクシー、電車などの移動サービスの検索・予約・決済等を一つのプラットフォームで提供するサービス「MaaS」(Mobility as a Service)は、2016年のフィンランドでの実証実験を皮切りに、移動革命の切り札として世界的なブームを巻き起こした。
しかし、過熱気味だったMaaS開発競争も、新型コロナウイルス禍で沈静化してしまう。MaaSの先駆けとなったフィンランドのスタートアップ「マースグローバル」が2024年3月に破産申請したことも、ブームの終焉を強く印象付けた。
しかし、移動需要が回復しつつある現在、移動サービスそのものは確実に進化を遂げている。2030年以降には、ドライバーが運転席にいなくてもシステムで運転操作を制御できる自動運転技術の「レベル4」が社会実装されると見られる。自動運転の自動車、船舶、空飛ぶクルマなどの新たなモビリティが、移動ビジネスの新たな可能性を引き出すことになる。
「移動ビジネス革命」前夜ともいえる現在、モビリティサービスはどのようなビジネスモデルを構築しているのか。ダイヤモンドクォータリーは、2024年12月3日、都内でビジネスラウンドテーブル「移動革命と地域社会変革のエコシステムづくり」を開催した(主催:ダイヤモンド社 メディア局、協賛:日本総合研究所)。このラウンドテーブルでは、物流、医療、公共交通など移動サービスの先進事例が紹介され、講演者と参加者が一体となり白熱したラウンドテーブルのディスカッションが展開された。
本稿では、モネ・テクノロジーズ、セイノーラストワンマイル、パブリックテクノジーズ3社のモビリティ先進事例のプレゼンテーションを紹介する。
医療とモビリティを掛け合わせて地域医療に新たな選択肢を
ソフトバンクやトヨタ自動車などが共同出資し、次世代移動サービス開発を手掛けるモネ・テクノロジーズは、消滅可能性のある自治体が40%を超えているいま、MaaS、データビジネス、自動運転MaaSの3つの事業領域で「モビリティイノベーションの実現」を推進する。本ラウンドテーブルで、代表取締役副社長 兼 COO 森川誠氏はモビリティを活用した社会課題の解決事例として、医療MaaSの最新事情について解説した。

代表取締役副社長 兼 COO 森川 誠 氏
2005年トヨタ自動車入社。MaaS事業部にて、モビリティサービス事業室 グループ長、Autono-MaaS事業室 室長を担当。2021年、MONET Technologies事業本部 事業企画部 部長に着任。2022年より同社COO付統括部長、自動運転戦略室 室長を兼務。2023年よりトヨタ自動車Maas事業部 主査(現任)を兼務し、同年2月、代表取締役副社長 兼 COOに就任。現在に至る。
同社は地域の慢性的な医療体制不足を解消するため、医療とモビリティを掛け合わせて地域医療に新たな選択肢を生み出すサービスを提供している。たとえば、岩手県北上市の医療MaaSは、自力通院ができない患者やその家族に対し、医療機能が搭載された専用車両で自宅近くまで移動し、病院にいる医師はモニター越しに診察をするというモバイルクリニック推進事業を展開している。
また、長野県伊那市で導入されているオンライン妊産婦健診や、茨城県境町の眼科スクリーニング検診、三重県鳥羽市のオンライン診療など、医療MaaS導入実績は全国15都市に及ぶ。こうした医療MaaSの導入により、これまで訪問診療で課題となっていた医師の拘束時間や診察できる患者数が改善されるなどの成果が生まれている。また、患者や家族の通院負担の軽減、サービスが移動することによる症状の重篤化防止といった導入効果もあるという。
同社の医療MaaSは個別訪問型からスタートしたが、集合型、移送と個宅訪問型など、さまざまな運行形態へとバリエーションが拡大している。それに伴ってサービスも妊婦健診、眼科スクリーニング、保健指導など多岐にわたるようになってきた。そのため、MaaS向けの高機能を装備した「ユニバーサルサービス車両」の提供を開始した。今後は、医療バスや行政バスに留まらず、さまざまなサービスで活躍することが期待される。

現在、実装を見据えて導入を決断する自治体も増えていると話す森川氏は、「モネ・テクノロジーズの医療MaaSは、行政や自治体向けのサービスだけではなく、医師にとっても診察業務の効率化となるサービスでもある。現在は、慢性疾患を抱える高齢者の診察が中心だが、今後は自動運転バスを最適に組み合わせ、社会システムとして一体化した実装を実現し、体験格差のない社会を目指していきたい」と語った。
同社の医療MaaSは、過疎地医療の課題、高齢化による通院の問題解決に向け、医師の目や声を患者の元へ届けるシステムを構築している。その結果、病気の進行だけではなく、未病対策や医療費高騰を食い止めることにもつながる。病院や医師が少ない、または最寄りの病院や診療所から遠い地区でも最先端の医療が受けられることにより、セカンドライフや、リタイアメント後にあこがれの場所に住むという選択肢も広がり始める。地方自治体にとっては、人口流出問題の緩和、移住対策の促進といった、医療面以外での効果も期待できるだろう。