しかし、敬語を使うことは、時として相手との距離も生み出してしまいます。そういう集団では、礼儀を重んじる一方、集団での団結力や所属意識を高めるために、礼儀と同時に一定の親密さも求められます。

 そこで、敬語の形式や機能を維持しつつも、親しさを演出できるこの新敬語が使われるようになってきたのです。

 中村が指摘するように、「○○っす」は、「○○です」という表現を発音がしやすいように変化させたもの(「音便化」といいます)ですが、さらに短くして「○○ス」と縮めることもあります。

 書きことばの場合には「カタカナ」にすることで「軽量化」もしています。こういう短縮化を通じて、ことばだけではなく、相手との距離も縮めている点は興味深いところです。

堅苦しさを感じさせない
「大人のタメ口」とは

 大人の世界では、敬語を使って話すことが標準的です。人によっては、同い年だろうが年下だろうが、敬語で話す方が楽という人も多いでしょう。

 かくいう私も、基本的に年齢を問わず、敬語を使うタイプです。

 ただ、敬語にも軽い敬語から慇懃すぎるくらいの敬語まで、ずいぶんと丁寧さに幅があります。

 例えばレストランでの会話で、相手に何か食べ物を勧める際に、「食べます?」という場合と、「召し上がりますか?」あるいは「お召し上がりになりますか?」という場合では、丁寧さや堅苦しさに差がありますよね?

 そういう意味では、語尾だけ「です・ます」にするくらいの、丁寧レベルが軽めの敬語は、タメ口に近いくらいのカジュアルさで話されることがあります。そういう敬語は、いわば「大人のタメ口」とも言えるでしょう。

 楽しい会話をするには、やはり慇懃度の高い敬語を使っていると、なかなか打ち解けた感じが出にくかったり、よいリズム感で会話ができなかったりすることもあります。

 ですから、失礼にならないけれども、ある程度カジュアル度の高い敬語を使うということは社会人としては有用な能力になります。