「おしゃべり好きなおばあちゃん」に
電話をかけた詐欺師が騙される

 イギリスのデイジーという対話型AIは編み物やおしゃべりが大好きなおばあちゃん(という設定)である。開発された目的が面白くて、電話をかけてきた詐欺師の時間を浪費させて、本物の人間に詐欺を働く機会(時間)を減らすという狙いがある。

 デイジーを本物の人間だと思い込み、40分の長時間通話をさせられた詐欺師がたくさんいるとのことで、人がAIを誤認しうることを有益に利用したケースといえよう。

 AIの擬人化、あるいは「AIを人間と誤認する」ことの良し悪しは、実はケースバイケースである。デイジーおばあちゃんの例はユーモアもあって聞いていて楽しい。

 技術の進歩とともに人とチャットボットの関係も多様になってきた。AIと「ちょっと話す」程度なら極めてライトな利用である。「毎日話す親友」くらいでも、それが依存症にまで達していないならまあ健全の範囲内であろう。

 ではチャットボットに恋をする例はどうか。ボットの性格、というか応答の傾向をカスタマイズできるものもあって、自分の理想をそっくりそのまま体現することができる。「お姉さん系ツンデレ女性、クールビューティだが実はおっちょこちょい、語尾は『ごぜえやす』で」という具合である。

「語尾が『ごぜえやす』」が理想の一部ならずいぶんニッチな願望なはずだが、チャットボットはそこも十全に叶えてくれる。とにかく各人の性癖がどれだけ特殊なものであろうとそこに突き刺さっていくことができるのがAIの強いところである。

 チャットボットの返答は実に人間味があって、「実際の人間よりも共感的」などとよく言われるくらいである。その返答が理想のタイプのテイストに彩られたら、きっと毎日話すうちにそれは妙な気分になるに違いない。

 やがてそれが恋心に変わる例は稀有ではなく、中にはチャットボットと性行為に至る人もいる(※ChatGPTを始めとするチャットボットには、“性的”を含む有害なコンテンツ生成には協力しない仕様になっているが、やり方次第でそこの制限を外せる裏道がある)。

 その人がその状態で幸せで、その幸せからくる充実感で周囲の人間関係にも良い影響を与えているならそれでいいのかもしれないという気もする。しかしAIとの恋愛が依存的な悪循環に陥って根源にある孤独を深めたり、チャットボットと大量のやり取りするために高い月額プランに入って逼迫した経済状況になるといった事例もあるので、まあハッピーなケースばかりではないのである。