特に、イベント型の施策に偏ると長期的な成長戦略には結びつきません。スタートアップとのアイデアコンテストやハッカソンも、実際の事業化に結びつける仕組みがなければ、単なる一過性の取り組みで終わってしまいます。スタートアップと共同でPoC(概念実証)を行っても、その後の本格導入のプロセスが明確でなければ、せっかくのアイデアが事業化につながることはありません。

 オープンイノベーションを機能させるためには、スタートアップとの提携発表だけでなく、どの技術をどこで、どのように活用するのかを明確にし、事業部門と連携して実際に社内に導入・運用できる仕組みを整える必要があります。

出資者ではなく顧客になる
BMWのベンチャークライアントモデル

 オープンイノベーションの課題を解決する方法の1つとして、BMWが採用した「ベンチャークライアントモデル」が注目されています。

 BMWは2014年にこのモデルを導入し、スタートアップへの出資ではなく、顧客として技術をいち早く導入することでイノベーションを加速させるアプローチを確立しました。従来のCVCとは異なり、投資リスクを抑えつつ、企業の戦略的課題を解決し、スタートアップの技術を活用することを目的としています。

 このモデルの特徴は、スタートアップとの関係を投資家ではなく「初期顧客」として築く点にあります。BMWは、自社の技術ニーズを明確にし、それに適合するスタートアップの製品や技術を実際に導入することで、迅速なイノベーションを実現しています。スタートアップにとっても、投資を受けるのではなく、BMWを顧客として獲得できるため、スケールアップのチャンスが広がります。

 この取り組みを支えるために、BMWは「BMW Startup Garage」を設立し、スタートアップの技術を自社のプロダクトやプロセスに統合するための支援を実施。これにより、例えば高度運転支援システム(ADAS)の早期導入や、工場内の自律走行技術の実装といった成果を上げています。また、年間約30のスタートアップ製品を評価し、20以上のスタートアップを正式なサプライヤーとして採用するなど、継続的に新技術を導入し続けています。

 BMWの成功を受け、BoschやSiemens、L'Oréal、Airbusなどの企業も、ベンチャークライアントモデルを採用し始めています。このモデルは、企業がスタートアップとの協業をより実践的かつ効果的に進めるための新たな手法として、今後さらに広がっていくと考えられます。