前回紹介した生活保護法改正案は、いよいよ本日(2013年5月24日)から衆議院で審議開始となる。

今回は、生活保護を受給している障害者世帯の長男の日常と思いを通じて、当事者にとっての現在を紹介したい。生活保護制度をめぐる政治的激動の中で、当事者は今、何を思っているのだろうか?

「生活保護を嫌悪しています」

「生活保護からの脱却」は夢に終わるか <br />貧困にあえぐ障害者一家に育った50代男性のいま馬場さん一家の住まいの中。内装は荒れているが補修されておらず、古びた調理器具が台所から溢れている(馬場さん提供)

 馬場寿一さん(仮名・51歳)は、千葉県の中都市にある県営住宅で、弟と2人暮らしをしている。馬場さんは精神障害者で、弟は難病を抱える身体障害者(内部障害)だ。4年前までは身体障害者(肢体不自由)である母親も同居していた。しかし高齢化に伴い、エレベータのない県営住宅での生活が不可能になったため、現在、70代になる母親は、公営の老人ホームに入居している。約20年前に亡くなった父親も聴覚障害者だった。

 馬場さん自身には、職歴がほとんどない。中学を卒業した後、就労を試みたことは何度もあるけれども、精神障害のため就労を継続できなかった。父亡き後の一家の生計は、肉体労働に従事していた弟が支えていた。弟も内部障害を持っていたが、治療を続けながらの就労だった。一家の家事・役所等での手続きなどは、ほとんど馬場さんが担っていた。しかし4年前、弟は難病にも罹患し、就労を継続することができなくなった。馬場さん一家は、生き延びるために生活保護を申請するしかなかった。

 馬場さん一家の生活保護受給生活は、満3年を過ぎたところだ。むろん、資産がなく家族全員が障害者である馬場さん一家に、生活保護を利用できない理由はない。51歳の馬場さんと48歳の弟が稼働年齢にあるとはいえ、1人は精神障害者であり、1人は難病を抱えた身体障害者だ。この一家に直接接し、なおかつ「それでも就労すべきだ、努力すれば就労できるはずだ」と言う人は、たぶんいないだろう。

 インタビューのはじめに、緊張をほぐす意味で雑談をしていたところ、馬場さんはふと、真剣な口調で、

「生活保護で生活している俺たちみたいな人を、どう思いますか?」

 と筆者に尋ねた。それは「経済的に自立している障害者として、生活保護を受給している障害者をどう思いますか?」という、問われるのも答えるのも辛い問いかけだ。現在の日本で、人と人とを「納税者」「税金を使っている人」に分断する力と同じものが、障害者の中にも働いている。でも、率直に、自分の思うところを答えるしかない。