映画『九〇歳。何がめでたい』は、橘高さんがDVDを持ってきてくれて冒頭30分だけ見ましたけど、あんまり覚えてません。
ある日監督やら美術さんやらゾロゾロ来てね。何もしなくていいと言うから、私は座ってテレビを見ていて。みんな知らん顔でずっと家のいろんなところを測っていましたね。そのお陰で家の風景はそっくりそのまま映画に再現されています。
でも、ストーリーは完全に創作だわね。明日から映画が公開らしいけど、それにしても、耳が聞こえなくなると、現実感が遠のきますね。補聴器をつけてもよく聞こえないんですよ。
『戦いすんで日が暮れて』
衣装にまつわる裏話
唐沢寿明さんが私の作品に出てくださるのは、2回目です。映画『九十歳。何がめでたい』では、小学館の橘高さんの役をやって。その前は、『血脈』が原作のNHKの連続ドラマ『ハチロー~母の詩、父の詩~』で、兄のサトウハチローの役をやってくださってね。これも、縁ですね。
『まだ生きている』に書きましたね。「佐藤魂のカケラも持ち合わせのない真面目男(多分)が、その魂に迫ろうと奮闘している様に胸を打たれずにいられなかった。一生懸命の大熱演だった」と。
『戦いすんで日が暮れて』も映画になりました。映画の撮影を見にいったら、私の役を演じた岡田茉莉子さんが、夫がつくった多額の借金で金策に奮闘している場面なのに、仕立てのいい上等な着物を着て出てくるのね。それはおかしいじゃないかって抗議したの。

だけど、最後まで聞き入れられなかったわね。本当はもっと貧乏で一文なしだったから、着るものどころじゃなかったんです。岡田さんは「だって佐藤先生が綺麗なお着物を着ているのを写真で見たんですもの」って言ってたんだけど、それは私の母親が女優をしていたものだから、母の着物があって、それを長いこと着回していただけのことなんですよ。それは所詮、着古しですからね。
岡田さんもそうだけど、昔の女優さんっていうのは、自分を見目良く見せたがったのよね。史実や作品とは別に。女優の地位も高かったから、監督もプロデューサーも何もいえなかった。そういう時代だったんですよ。
いまの映画は、ちょっとはマシになったんじゃないですか。史実を再現しようと監督も女優もスタッフも同じ方向を向いている。でも、映画もドラマも脚本次第ですね。脚本がまずければ、いい作品にはならないですよ。