M&Aの成果を最大化するブランドマネジメント 

キヤノンの事業ポートフォリオの「戦略的大転換」に、デザイン組織が果たした役割とは?

──デザインの力を経営に生かすためにCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)を置く企業も増えています。企業内のデザインリーダーの役割については、どのようにお考えですか。

 グローバル企業のデザイン組織の長として、国や地域をまたいだブランドマネジメントの重要性を痛感しています。いわゆるCI(コーポレートアイデンティティー)だけでなく、製品デザインを通じてキヤノンブランドを体現していくこと。これが非常に大事です。

 キヤノンのデザインは、いわば「エッセンシャルデザイン」です。医療は人間に欠かせないし、半導体がなければスマートフォンもパソコンも動きません。報道や印刷も人間の知的好奇心を満たすために欠かせない。こうした社会に不可欠なプロダクトを通じて未来をデザインしているのです。

 コンシューマー商品は国や地域によって使われ方に差がありますが、キヤノンが扱うエッセンシャルなBtoB製品の場合、オペレーターの作業やスキルはおおむね世界共通です。そのため、国や地域を超えてデザインを整合させていくことが品質向上につながります。

──具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。

 分かりやすいのがM&Aにおけるブランド統合です。キヤノンでは「戦略的大転換」の過程でM&Aを通じて事業を拡大してきました。半導体では2005年にNECグループから2社が、商業印刷では10年にオランダのオセ社(現・キヤノンプロダクションプリンティング)が、医療では16年に東芝の医療事業がキヤノングループに加わっています。それぞれ異なる歴史とカルチャーを持っていますから、アイデンティティーの統合は簡単ではありません。ここにデザイン組織が強く関わります。

 例えば、オセ社はオランダの名門企業でした。大型印刷機の製造実績が豊富で、デザイン力も高かった。M&Aを実りあるものにするために、こちらのやり方を押し付けるのではなく、謙虚に学びながら、良いものはきちんと継承していきました。最初期からデザインチームが現地に入ってロゴや看板といったCIを整え、これらを浸透させながら互いのデザインポリシーを擦り合わせ、その後、キヤノンブランドとしての新しいデザインのガイドラインを導入しています。ここを丁寧にしないと、せっかくM&Aで得た技術も十分に生かせませんし、人材も流出しかねません。