2021年末にかけて、プーチン大統領はウクライナに対する全面攻撃に踏み切るかどうか検討を進めており、ロシアの主要な情報機関の「トップ」と相談していた、と『ニューヨーク・タイムズ』が伝えた。

 このトップはプーチンに、CIAとMI6(編集部注/イギリスの国外を担当する情報機関)がウクライナをコントロールし、対露工作の「橋頭堡」にしようとしている、と報告した。だからプーチンは米英の情報機関がウクライナに深く関与していることを知っていたのは明らかだ。

 ただ、このトップがこの時点で、ウクライナを攻撃すべきだと主張したのか、あるいは慎重にした方がいいと言ったのか明らかではない。いずれにしてもプーチンは2022年2月24日、ウクライナ全面侵攻に踏み切った。

 ロシア軍によるこの「特別軍事作戦」(プーチン大統領)の前から、米英の協力関係が進展しており、特に米・ウクライナ間の情報協力がウクライナ防衛の「要」となっていた。

ウクライナも負けじと
ロシア領内に軍を進めたが……

 戦争は多くの不幸をもたらす。特に苦しんでいるのはウクライナ国民だ。2024年現在で、ウクライナ国民の国内難民は800万人、海外難民は820万人に達している。戦争前の総人口は約4500万人だから、約35%の人々が自宅で家族と一緒に暮らすことができない状態だ。

 しかし、戦況は総体的に膠着状態に陥っている。

 ロシア政府は2022年9月、ドネツク、ルハンスクの東部2州とヘルソン、ザポリージャの南部2州の併合を発表した。ロシア系住民が多いとされるこれらの州だが、形だけロシアに帰属させても、実態は変わらない。

 2023年夏、ウクライナ軍はロシア軍が占領する南部・東部4州に「反転攻勢」をかけた。しかし、ロシア軍は多くの地雷を敷設し、前進を阻む塹壕を掘って対抗。逆に米国などからのF16戦闘機などの武器供与が間に合わなかったこともあり、結局反転攻勢は失敗に終わった。

 2024年8月にはウクライナ軍は、想定で1万人強の兵員を動員して、ロシア政府のクルスク州を越境攻撃した。この戦争で初めてウクライナ軍がロシア領土を占領した。ウクライナは停戦交渉で「クルスク」を取引材料に使う可能性も指摘されている。しかし、戦況全体にそれほど大きい影響を与えることはなさそうだ(編集部注/2025年4月末現在は、ロシア軍がほぼ奪還している模様)。