このスパイからの人的情報(HUMINT)に加え、国家地理空間情報局(NGA)が分析した画像情報(IMINT)、国家安全保障局(NSA)が傍受した信号情報(SIGINT)など、情報コミュニティ(IC)を総動員してまとめたのだろう。

 この時プーチンはすでに侵攻を最終決断していた。開戦の日も決定していて、CIAもその日を探知していたが、バイデン大統領には伝えなかった。

 大統領がうっかり発言をしてその日が明らかになれば、プーチンは開戦を取りやめることができなくなる恐れがある、と考えたのかもしれない。

CIA長官はプーチン側近を
「莫大な代償」でおどした

 バイデン政権はこの時点で、米国が可能な限りの情報公開を行うことを決めた。ロシアが侵攻の詳細な情報を米国につかまれていることを知れば、簡単に迎撃されて不利になるため開戦を撤回する可能性がある、と期待したようだ。

 同時に米国は、西側諸国の結束を強化して、ロシアを追い詰める方針も決定した。漏らしてはならない「ソース(情報源)」と「メソッド(情報入手の方法)」の2点が露見しない範囲で、メディアへの「リーク報道」などの形で公開した。

 これを受けて、オースティン国防長官とミリー議長はそれぞれ、ロシア側のカウンターパート(編集部注/相手方における同等クラスの人間。ロシア国防省およびロシア軍参謀本部の高官のこと)に電話して、ロシアが勝利しても、かつてソ連がアフガニスタン侵攻後に遭ったのと同様に、抵抗する部隊との熾烈な戦闘が続くと警告した。

 またバーンズCIA長官は11月2日、訪露してユーリー・ウシャコフ大統領補佐官と会談、そこからソチで保養中のプーチン大統領に電話し、「米国はあなたが何をしようとしているか知っている。ウクライナを侵攻すれば、莫大な代償を科せられる」と警告したという。

米英情報機関がウクライナに
対ロシア工作の橋頭堡を構築

 プーチンは警告に耳を貸さず、予定通り侵攻計画を実行した。なぜ計画の変更をしなかったのか。計画の練り直し、延期といった方策を検討すべきだが、検討した証拠はない。