三井化学が事業構造改革を加速している。ICTなどの成長3領域を重点的に伸ばす一方で、収益性が低い石油化学事業でも他社と組んで積極的に再編を推し進めている。特集『化学サバイバル!』の#8では、三井化学の橋本修社長に石油化学事業の再編の方向性やスケジュールについて聞いた。また、成長3領域で今後注力していくビジネスに加え、化学業界の独自の再編案についても明かしてもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
石油化学銘柄が払拭できず?
「石化事業の分離」は無責任
――化学大手の中で三井化学はいち早く事業構造改革を進めました。ただ、他の大手と並んで市場の評価はいまいちです。なぜでしょうか。
これは私が理由を聞きたいぐらいですね(笑)。2008年のリーマンショックの頃、三井化学の業績は低迷していました。石油化学の環境激変もあって、事業構造改革を先にやらなければならなかった面はあります。改革で先行したのは確かですが、石油化学銘柄という過去の印象が払拭できていない部分もあるのかもしれません。
石油化学については、(ポリエステル繊維の原料となる)高純度テレフタル酸(PTA)の国内生産停止などを進めてきました。ただ、21年に公表した経営計画では、石油化学のコア営業利益が足元で300億円ほどとする見込みでしたが、中国の化学品の過剰生産のインパクトで想定が大幅に狂ってしまいました。大阪のエチレンプラントのトラブルがあったとはいえ、今期は100億円の赤字の見通しです。投資家からすれば、ずれているといったところでしょう。
――エチレン製造設備の再編は、東日本では出光興産と、西日本では三菱ケミカルグループと旭化成との3社で進めています。
再編の具体策がもう少し進んでくれば、投資家も評価してくれるのではないでしょうか。投資家からしたら、利益率も異なる石油化学は早く分離してほしいかもしれません。もちろん、石油化学事業をレゾナック・ホールディングスのように分離しますよと言えば株価はぐんと上がるのでしょう。でも、現状で切り出してしまうのは無責任です。
例えば、電機大手が半導体とかディスプレーを切り出して再編しましたが、結局、誰が先導するのかが分からず、うまくいかなかったことがあります。今、この状態で石油化学を切り離したら「根なし草」になってしまいます。
石油化学は悪いイメージを持たれていますが今も年率4%で成長しています。中国の増産はありますが、日本が全部上流を止めてしまっていたら、中国は値上げをしてくるでしょう。日本は下流で自動車や半導体の材料を作っていますが、値上げがネックになって作れなくなるかもしれません。そういうことが起きないようにしないといけません。
次ページでは、橋本氏が西日本のエチレン製造設備で進む3社提携の進捗や今後のスケジュールを明らかにする。また、石油化学事業の再編の基本的な方針や今後の稼ぎ方に加え、成長3領域で注力するビジネスについても解説する。そして、化学メーカーが乱立する現状を踏まえ、独自の業界再編案も披露する。