総合化学大手の旧昭和電工が2020年に旧日立化成を巨額買収して発足したレゾナック・ホールディングス。経営統合後は半導体銘柄への脱皮を図り、化学業界では「異端児」ともいえる存在となった。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』の本稿では、染宮秀樹取締役常務執行役員最高財務責任者(CFO)を直撃。ROIC(投下資本利益率)を経営の重要指標に掲げた理由や、大きな話題となった「小が大をのむ」買収で悪化した財務の健全化策、石油化学事業の部分分離を決断した狙いなどを語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
ROEの代わりにROICを導入
政策保有株の全株売却を決定
――レゾナック・ホールディングス(HD)発足前の旧昭和電工では、ROE(自己資本利益率)15%の数値目標を掲げていましたが、現在はROIC(投下資本利益率)10%を目標にしています。
そもそも、ROEは借り入れなどを増やして財務レバレッジをかける方が数字が上昇します。われわれは旧日立化成の巨額買収で、DEレシオ(負債資本倍率)が1.84倍まで増加したので、バランスシートを改善しながら、収益を上げていく必要があります。なので、資本収益性の指標としてはROEよりもROICの方が全社の目標に沿います。
ROICは、事業でも資産でも収益を生んでいないものを見直す方向性を浸透させることにも役立ちます。最たるものが、政策保有株や遊休不動産です。私は電機業界のリストラを幾つも見てきたので、なぜキャッシュになるアセットをそのままにしているのか不思議に思いました。私が2021年10月に昭和電工(現レゾナック・HD)に入社して3週間で、政策保有株は原則、全て売却する方針を決めました。どんどん現金化して返済できる負債は返していく、そういう方向性を社内に浸透させたかったこともROIC導入の背景にあります。
――東京・芝大門にあった旧本社の売却もその一環ですか。
OBの方たちからすれば、昔の昭和電工を思い出させるものがなくなってしまうことは残念なことだったと思います。いろんな方からご意見を頂きましたが、何とか最後はご理解いただきました。
――旧日立化成を買収して負債が膨らんでいるからこそ、ROIC経営を導入して会社全体に資本収益性を意識させていく狙いがあったということですね。
そうですね。あとはROIC経営を事業部別に認識してもらって、それをどう高めていくかという意識付けがしたかったこともあります。事業部別にROEは出せませんので。オムロンの有名なROIC逆ツリーのような形で現場までカスケードダウンしていきやすい点もありますので、ROICの普及活動が当初の信じる道でした。
――事業の評価でもROICを重視しているのでしょうか。
事業のステージによりますね。例えば、足元で市場が拡大し、投資もかさむような炭化ケイ素(SiC)のような事業の場合、ROICで評価をしてしまうと先行投資ができなくなってしまいます。成長期にある事業はROICを算定はしていますが、別のKPI(重要業績評価指標)でも見ています。
成熟期にある事業については、アセットをある程度減らし、縮小均衡でもいいのでROICを高めれば、全社に貢献することになります。成熟期を迎えつつある事業の評価にはROICが一番有効です。
――レゾナック・HDの発足後に事業売却も進めています。ROICを基に判断することもあるのでしょうか。
次ページでは、染宮氏が事業売却のプロセスや基準を明らかにする。また、同氏が巨額買収によって膨らんだ有利子負債のコントロールをどのように進めているかも解説。さらに、業界では驚きを持って受け止められた、石油化学事業を分社化し、独立させる「パーシャルスピンオフ(部分分離)」を採用した理由や、その“果実”についても明らかにしてもらう。