
今春、サントリーホールディングスで10年ぶりに創業家出身者がトップに就任する“大政奉還”があった。1899年に「鳥井商店」として産声を上げ、創業120年の歴史を誇る日本屈指の同族企業、サントリーの足跡をダイヤモンドの厳選記事を基にひもといていく。連載『ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】』では、「ダイヤモンド」1966年5月30日号に掲載された「ビール5社の優劣格差はどう変わる 麒麟・サッポロ・朝日・サントリー・宝」という当時のビール業界の勢力図をまとめた記事を2回にわたり紹介する。サントリーはビール参入3年目で、先行していた宝(現宝酒造)とシェアが逆転し、業界4位に浮上している。後編の本稿では、シェアトップのキリンビールと同じ宣伝広告費を投じるなどサントリーが取っていた積極的な拡大策の中身を明らかにする。(ダイヤモンド編集部)
サッポロとアサヒは小瓶でリード
宝とサントリーの対照的な戦略とは
サッポロと、朝日。この両社は新型小瓶ビールの販売では、麒麟を一歩リードしている。朝日は1964年に“スタイニー”、サッポロは65年に“ストライク”をそれぞれ新発売した。現在、これらの新製品は、朝日がビール売り上げの15~16%、発売が1年遅れたサッポロも、10%前後になっている。
小瓶には、大瓶に見られない次のようなプラスの面がある。
・一つ……ビール税の割合が大瓶に比べて安く、メーカーの手取りが増えること。
・二つ……小瓶の需要層は、一般家庭用が多いことである。
現在、ビールの需要は、業務用6に対し、家庭用4であるが、今後は、家庭用の需要が増えていくことが考えられる。外国では、そうである。アメリカの場合は、需要の48%が瓶詰ビールであるが、その大部分は小瓶。あとは缶ビール33%と、生ビールである。
麒麟の川村音次郎会長は、「うちは、小瓶の売り上げは、全体の7~8%である。いずれは、小瓶の需要が増えて、大瓶を上回る時代になるとみている。小瓶は、徐々に増やす」と言っている。サッポロ、朝日は、新しい需要開拓のための手を、早めに打った、ということができる。
さて、もう一つの特色は、製造面での技術改良、新方式の実用化である。この点では、朝日が一歩進んでいる。“屋外発酵タンク”を開発・操業に入った。建物の建設費が節約されることになり、工場建設費は従来より40%減になるという。
ビールは、装置産業である。建設におカネをかけず、工場の建設費を節約していく――、この方針を貫いていけば、朝日は今後の設備投資を有利に進めることができる。以上は、サッポロ、朝日の特色である。
ただ問題は、こうした一連の特色が、まだ実際の成績に反映していないことである。新型小瓶を発売するとなるとまず、新しい瓶を用意しなければならない。オリジナル商品であるから、宣伝・広告費も増す。一定の販売量に達するまでは、なかなか、ソロバンに乗ってこない。小瓶有望となれば、麒麟も本腰を入れてくることが、考えられる。競合が、心配になる。
また朝日の“屋外発酵タンク”についても、まだ操業して間もない。こういった新製品、新技術を、完全に軌道に乗せる会社が出てくれば、今後の業界地図は塗り変えられる可能性もあるが、いまの段階では、そこまで予測することはできない。

宝、サントリーはどうか。宝はビールに進出して9年、サントリーは3年を経過した。65年で、サントリーの蔵出し高が宝を上回った。サントリーの蔵出し高は58%増加(シェア1.93%)、宝は1.7%増(同1.91%)。業界地位は逆転した。サントリーと宝は、ビール部門に対する考え方が、対照的である。