ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】#9

今春、サントリーホールディングスで10年ぶりに創業家出身者がトップに就任する“大政奉還”があった。1899年に「鳥井商店」として産声を上げ、創業120年の歴史を誇る日本屈指の同族企業、サントリーの足跡をダイヤモンドの厳選記事を基にひもといていく。連載『ダイヤモンドで読み解く企業興亡史【サントリー編】』の本稿では、「ダイヤモンド」1966年5月30日号に掲載された「ビール5社の優劣格差はどう変わる 麒麟・サッポロ・朝日・サントリー・宝」という当時のビール業界の勢力図をまとめた記事を2回にわたり紹介する。ビール参入3年目のサントリーはまだ赤字にあえぎ、圧倒的な市場シェアを持つキリンビールが、先発組のサッポロビールやアサヒビールにも大きな差をつけていた。前編となる本稿では、キリンのブランド力の高さや商売のうまさを表すキリンの「三つの強み」を明かしていく。また、キリンに大きなリードを許すことになったアサヒとサッポロが負った痛手についても明らかにする。(ダイヤモンド編集部)

1966年のビール業界の勢力図
後発の宝、サントリーは赤字

 10年前。1955年下期のビール3社の配当は、麒麟3割2分(うち特配1割)、サッポロ、朝日はそれぞれ2割であった。5年前。60年下期の配当は、3社そろって1割8分。各社、この配当を余裕を持って実施していた。

 そして、65年。最近決算の3社の資本利益率を見ると、麒麟28%(配当1割6分)、サッポロ、朝日がそれぞれ17%(両社とも配当1割3分)、という成績になる。今日の水準から見れば、優良の業績である。しかし、年を追って“優良会社”としての力は薄らいでいることが分かる。

 後発の宝、サントリーは、ビール部門が赤字である。宝は57年、サントリーは63年にビールに進出した。その間、既存事業で上げた利益を、ビールにつぎ込んできた。

 サントリーは、ウイスキー部門の成績が良いため、1割配当を実施しているが、宝は、焼酎、合成酒など蒸留酒部門の成績が低下、63年3月期(年1回)に無配に転落。66年3月期も復配を見送った。

 さて、ビール各社の成績は、今後、どうなっていくか。

当時の紙面 ダイヤモンド「1966/05/30号」当時の紙面 ダイヤモンド「1966/05/30号」

 結論を出す前に、今日のビール会社は、どのような業況にあるか、その点から分析してみる。

 まず、麒麟、サッポロ、朝日を取り上げるが、この3社でも、収益力にかなりの差が見られる。

 65年下期の実質利益(税込み)を見ると、次の通りである。

麒麟…………3,615百万円
サッポロ……1,907百万円
朝日…………1,705百万円

(注)麒麟は小売価格値上げの効果が1カ月(66年1月)多くかかっているので、それによる増益分推定134百万円を差し引いた。

 この3社は、ビールのほかに、炭酸飲料、ジュースなど清涼飲料の仕事を持つ。ビール部門の売り上げに占める割合は、麒麟98.4%、サッポロ96.4%、朝日89.8%、という状況になっている。そこで、前表の実質利益にビールの占める割合を掛け、その期のビール販売本数で割ってみたところ、次のような数字となった。

大瓶1本当たりの利益
麒麟…………4.96円
サッポロ……4.36円
朝日…………3.94円

 機械的に計算すると、利益の多い順に麒麟、サッポロ、朝日と、上のような、違いが出てくるのである。問題は、この差が、なにから生じているか、である。