なぜ寝台列車は下火になったのか
民営化したJRならではの複雑な事情
寝台列車がなくなる背景としてよく語られるのは、新幹線や飛行機、夜行高速バスなどの競合が増えたことだ。しかし寝台列車には「個室で快適に眠れる」「ラウンジや食堂車など鉄道車両ならではの広さを活かした設備がある」など、差別化できる要素は多い。実際、JR西日本は臨時夜行特急の「WEST EXPRESS銀河」をシーズンごとに行き先を変えながら運行し好評を得ている。
にもかかわらず、国鉄時代に比べれば圧倒的に減った理由は、JR独自の事情がある。まず、国鉄が分割民営化後、収益分配が複雑になったことが挙げられる。会社をまたがって運行する列車は走行距離に応じて収益分配するのだが、その分配金を巡り対立が起きやすいのだ。
例えば東京~九州を走ったブルートレインで、最後まで残った熊本行き「はやぶさ」は以下のような配分となっていた。
● JR東日本:東京〜熱海間の約100km
● JR東海:熱海から米原までの約340km
● JR西日本:米原から下関までの約630km
● JR九州:下関から熊本までの約200km
この配分だと列車の起点・終点にあたるJR東日本とJR九州の得られる利益が少なく、逆にただ通過するだけのJR東海とJR西日本が多くの利益を得る。しかもJR東日本は首都圏のラッシュ、JR九州は各地に向かう特急列車を優先しなければならない時間帯に、足の遅い寝台列車を運行する必要に迫れられる。旨みが少ない上にダイヤ調整の負担が大きいのでは、廃止したくなるのも当然だろう。
逆に現在、唯一残っている寝台列車「サンライズ瀬戸・出雲」は、収益配分の多いJR東海とJR西日本が285系車両を持っているので、利益を取りやすい。ましてやJR西日本のWEST EXPRESS銀河は、臨時で四国に入線した以外は全て西日本管内だ。
続いて、人員面での負担も大きな要素だ。基本的に寝台列車は動力のない客車車両が多く、運行するには牽引する機関車が別に必要となる。しかし今の時代、多くが電車や気動車になり、新たな機関車は必要とされていない(JR貨物を除く)。そのためJRは機関車の運転手を自社養成することがなくなり、人員不足に陥っている。
また、寝台列車は昼夜問わずの勤務であり、乗務時間は当然長くなる。昨今の働き方改革では、勤務シフトを組みにくいことは想像に難くない。 これらの点を考慮すると、寝台列車が消えていくのは仕方ない流れと言えるだろう。
暗い話はこの辺にして、これまでどんな寝台列車が活躍してきたのだろうか。鉄道ファンの筆者はいくつも挙げたくなるのだが、本稿ではとりわけ代表的な列車を6つ、簡単に紹介しよう。