「立場」ではなく「事実」に向き合うことの大切さ
税務調査は、対象者の職業や肩書きにかかわらず、「事実に基づいて正しく税を徴収する」ことが原則です。どれほど立派な経歴をお持ちであっても、税制は公平でなければなりません。
これは税務職員だけでなく、多くの人にとっても大切な視点です。
社会の中で「自分は特別」「自分だけは例外」といった感情が芽生えると、知らず知らずのうちに、思い込みや感情で物事を判断してしまうことがあるからです。
感情の揺れは「プライド」と「不安」の裏返し
人が突然、感情的になるとき――その背景には、たいてい「プライドの傷つき」や「将来への不安」が隠れています。
先ほどの件も、おそらく夫の栄光ある人生と、残された妻としての誇り、そして今後の生活に対する漠然とした不安が交錯していたのでしょう。
これは、私たちの身近でも起こりうることです。たとえば、職場で注意されたとき、あるいは親しい人に誤解されたとき。感情的な反応の裏には、こうした心の動きがあることを意識するだけでも、冷静に対処しやすくなります。
「丁寧に接する人ほど、誇りを大切にしている」
私の経験上、富裕層に限らず、穏やかに接してくれる人ほど、内面に強い誇りや信念を持っていると感じます。だからこそ、それを脅かされたときに、強い拒絶反応が出ることもあるのです。
つまり、表面的には「怒り」であっても、その根底には「自分を大切に思う心」があるのだと捉えれば、他者の感情にも寛容になれるかもしれません。
「立場を越えて対話できる人」になるために
税務職員としてだけでなく、一社会人として、私はこの経験から「どんな立場の人とも、敬意を持って接すること」の大切さを学びました。
たとえ相手が怒っていたとしても、その奥にある感情に寄り添い、冷静に、誠実に向き合うこと。そうした姿勢は、どんな仕事でも、人間関係でも、信頼を築くための大きな力になるはずです。
※本稿は、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。