今では1周回って知らない話かもしれませんが、日本でiPhoneが発売された当初はソフトバンクの独占で、これが通信キャリアとして急成長する原動力になりました。孫さんのiPhoneへのコミットは大変なもので、詳細は書けませんが、当時のAppleのトップであるスティーブ・ジョブズが自然に受け入れたくなるようなオファーを提示したのです。
背景を解説します。まず、当時の日本にはいわゆるガラケーしかありませんでした。今では信じられませんが、日本ではネットとつながるスマートフォンなど普及しないという説が、テクノロジー評論家や証券アナリストの間でも主流でした。
このような日本市場への参入にあたって、ジョブズが「最良のパートナーはソフトバンクだ」と思うために、孫さんは何をアピールしたのか? 2000年代の孫さんのプレゼンの軸は、「ソフトバンクはアジアでナンバーワンのインターネット企業である」でした。実際、当時ソフトバンクは日本国内でYahoo!Japanを持つだけでなく、中国のIT 最大手アリババグループも傘下に収めていました。
また、当時のソフトバンクはYahoo!BBなどで培った営業力を活かして、携帯電話の月間契約者純増数もナンバーワン。この営業力を、iPhoneの日本市場攻略にシフトすることが可能でした。さらに分かりやすいことに、ソフトバンクの携帯ショップは、白を基調としたアップルストアに似た内外装になったのです。
そもそも、iPhone独占契約より前に、ソフトバンクはApple社の音楽端末であるiPodを携帯電話の販促品として大量に購入していました。そうした前哨戦もあったので、ソフトバンクはiPhoneの独占販売にこぎつけることができたのです。
このように「孫正義の交渉術」の特徴は、相手の懐に深く入り込む「共感と準備」に裏打ちされています。私自身もビジネスを起こして交渉力を磨いている最中ですが、“鯉取りまーしゃん”の姿を思い浮かべながら頑張ってみたいと思います。