もちろん筆者も、不正受給が良いことであるとは考えていない。しかし、生活保護を必要とする人が受給できない「漏給」の問題を考えると、不正受給に対する社会の関心の高さは、異様なものに見える。不正受給では人は直接死に至らないが、漏給は人を直接殺すからだ。漏給状態にある人々の人数に関する正確なデータは存在しないが、少なくとも500万人程度と考えられる。

 不正受給を行なっていると考えられる人々は、生活保護当事者約215万人のうち1%以下である。もし、いま不正受給が判明しているのが実態の20%としても、生活保護当事者の5%に満たない。緊急性は高くない約10万人の問題と、緊急性の高い少なくとも500万人の問題では、どちらに重点が置かれるべきであろうか? 不正受給の問題については、後でもう一度述べる。

不正受給の件数は、近年の摘発体制強化により増加しているが、1件あたりの金額は低下している。小額で、悪質性の少ない「不正受給」の摘発事例が増えている可能性が考えられる

大阪・母子変死事件から
何が読み取れるか

 2013年5月24日、大阪市北区のマンションで、28歳の母親と3歳の長男の遺体が発見された。死因は現在なお明らかでないが、母子は困窮状態にあったと見られている。

 現在までの報道で判明している経緯は、

・母親は、夫からのDV被害を受けており、母子で脱出した
・夫に転居先を知らせない目的か、住民票は夫の居住地にあった
・経済的に困窮しており、親族に経済的支援を求めたこともある
・おそらくは生活保護を申請する目的で福祉事務所を訪ねているが、「申請の意思あり」と記録されていない

 である。

 前述した、5月20日の厚労省・係長会議資料から、申請手続きに関する一節を抜粋しておきたい。

「保護申請の意思が確認された者に対しては、速やかに保護申請書を交付するとともに、申請手続きについての助言を行うことや、保護の申請書類が整っていないことをもって申請を受け付けないということのないよう、法律上認められた保護の申請権を侵害しないことはもとより、侵害していると疑われるような行為自体も厳に慎むべきである(37ページ)」

 少なくとも「あなたには申請権があります」「権利なんですから、申請してください」という助言は、亡くなった母親には行われなかったようだ。

親、夫から暴力を受けていたら?
「親族による扶養義務強化」が困窮者を殺す

 DV被害者の多くは、親または原家族に由来する問題を抱えている。暴力の絶えない家庭に育ったり、虐待を受けつつ生育したりした人々は、暴力のない家庭環境というものを想像することさえ困難だ。自分が理不尽な扱いを受けていることに気づいた時には、既に問題が深刻化していることが多い。命にかかわる問題に発展するまで、「これは愛情」「どこの家でもよくあること」と自分に言い聞かせがちだからだ。

 夫がDV加害者である場合、業田良家のコミック「自虐の詩」のイサオのように明らかに問題の多い人物であれば、まだ対処は容易だ。しかし、多くのDV加害者は、外面がよく、社会的ステータスの面からも申し分がなく、巧妙に「妻の父親に取り入り、安心して妻を痛めつける」などの行動を取ることまである。このため、DV被害者となった妻は孤立しやすい。