第63条は、単に「何らかの理由によって受給しすぎた分は返してください」というだけの話である。「生活保護世帯の子どもが高校生になり、初めてのアルバイトで収入を得たが、申告義務を知らなかった」「本人も忘れていた資産が見つかった」など、不正受給として罰則を課すことが適切ではない場面で適用されてきた。過失による場合・故意であっても1回の金額が少ない場合などには、最初の数回は第63条の適用対象となり、繰り返される・エスカレートする場合に限り、「不正受給」として第78条の適用対象となることも多い。また、ミスを犯す可能性は行政側にもある。「誤って保護費を払い過ぎたので返して下さい」と、当事者が費用返還義務を求められる場面もある。

 第78条が、いわゆる「不正受給」に関するものである。さらに、第85条・第86条は、その場合の取り扱いである。罰金に加え、場合によっては刑事告発も行われる。「罰金がたった30万円」という批判もあるが、生活保護世帯にとっての30万円は、定期的な就労収入があって生活保護基準以上の生活ができる世帯にとっての「30万円」とは全く意味合いが違う。その世帯に子どもがいれば、子どもの教育・生育環境などにも影響する。筆者は、「罰が重すぎるよりは、軽すぎる方が、まだ良いのでは」と思う。

 最も気になるところは、第63条と第78条の適用範囲の境界が明確でないことである。恣意的に第78条を適用する意図がないのであれば、明確にされるべきではないだろうか?

 そして最近、筆者はしばしば、微妙なケースで「最初は第63条で」という順序を踏まず、いきなり第78条が適用されて「不正受給」と扱われる話を耳にする。「不正は不正でしょ」と言いたい方々は、ぜひ、ご自分が「居酒屋談義で感情が激して強い言葉を口にすると刑事告発されるかもしれない」といった状況に置かれる可能性を想像してみていただきたい。生活保護を利用せずに済む人が耐え難いことを、なぜ、より劣悪な立場にある人々に要求できるというのだろうか?

 改正案が成立すると、不正受給に対する罰則等が非常に「充実」する(原文 http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm)。

第八十五条中「三十万円」を「百万円」に改め、同条に次の一項を加える。
 2 偽りその他不正な手段により就労自立給付金の支給を受け、又は他人をして受けさせた者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。ただし、刑法に正条があるときは、刑法による。

 不正受給の罰金の上限が、30万円から100万円となる。また、生活保護費だけではなく、新設される「就労自立給付金」も対象となる。差し引き70万円で、どのような不正受給が、どのように抑止できるのだろうか。筆者には想像が及ばない。

第八十六条第一項中「第五十四条の二第四項」の下に「及び第五十五条第二項」を、「同じ。)」の下に「、第五十五条の五」を、「報告をし」の下に「、第五十四条第一項の規定による物件の提出若しくは提示をせず、若しくは虚偽の物件の提出若しくは提示をし、若しくは同項の規定による当該職員の質問に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし」を加える。

「答弁せず」が罰則の対象であってよいのだろうか? 警察での取り調べに対してさえ、黙秘権は刑事訴訟法で保障されている。「生活保護当事者には、それ以外の人と異質な法体系を適用する」ということがあってよいのだろうか?