個人向けの国債販売や
金融リテラシー教育が必要

――リーマン・ショックの時は、市場のメインプレーヤーは銀行や証券会社、保険会社などで、ある程度、財務状態が開示された金融機関でした。そうした伝統的な企業が経営危機に陥った時は、当局が金融システム全体を考慮して、どこを救済し、どこを見放すかの判断がなされたかと思います。この点、シャドーバンクは違う面がありませんか。

 それはありますね。企業の実態が見えない中での判断はとても難しい。一方で、シャドーバンクには機関投資家も投融資していますから、判断を誤ると、危機が連鎖してしまう可能性はあります。

 ただし、当局が公的な資金を供給する場合、「なぜA社は救い、B社は見捨てるのか」という説明責任を果たさなければならない。リーマン・ショックの時にも、その選別についての不満は大きかった。

――今、現在は、そうしたリスクが顕在化することに対する金融界全体の不安は薄いのでしょうか。

 ないと言っていいぐらいだと思います。業界としては「割と状況はいいんでしょ」という感覚ですね。日本で言えば、金利は上昇基調にあるから、(利鞘が増える)銀行などにとって経済環境はいいわけです。金融システムに不安を感じている人はあまりいないと思います。

――世界全体においても同様ですか。

 世界でも今、現在はそうだと思います。シャドーバンクは巨大になっていて、全体として見えなくなっている面は広がっていますが、見えている面では資本性も十分なので、問題ないという感じです。ただ、私自身は、本当にそうなのかと疑問を持っていて、全部を信用してはいけないと思っています。

――ヘッジファンドが再建するために買収した事業会社が、最終的には経営破綻したという事案も出てきています。 

 日本の投資家の方々がファンドに出資する際には、分散投資をすることが適切だと私は考えます。セオリー通り、1つの運営会社ばかりではなく、地域や産業を分けて出資するなど、分散投資が今こそ大切ではないでしょうか。

――個人においても、分散投資ですか。

 そうですね。新NISAは一歩前進ですが、改善点はいろいろ考えられます。例えば、リスク分散という意味では、国債を買える仕組みなどを拡充すべきです。

 また、国のほうも、日本国債の買い手を探しているわけですから、個人向けの施策を考えるべきではないでしょうか。その場合は、投資家は金利観を磨くなどが必要になってくるので、個人の金融リテラシーを高めていく施策も同時に進めていくべきです。(了)

中空麻奈(なかぞら・まな)
パリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長・チーフクレジットストラテジスト・チーフESGストラテジスト。慶應義塾大学経済学部卒。一橋大学大学院修士課程修了(経営)。野村総合研究所、野村アセットマネジメント、モルガン・スタンレー証券、JPモルガン証券などを経て、2008年BNPパリバ証券にクレジット調査部長として入社、2020年2月より現職。経済財政諮問会議議員、財政制度等審議会財政制度分科会起草委員などの公職に就く。令和国民会議(令和臨調)では運営幹事、財政・社会保障部会の共同座長を務める。主著に『金利上昇は日本のチャンス』『ユーロ連鎖不況』『早わかりサブプライム不況』『図解ソブリンリスク早わかり』『グローバル金融規制の潮流』など。
参議院選挙で考えてもらいたい、日本の危機と令和臨調の提言。『金利上昇は日本のチャンス』著者、中空麻奈氏(パリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長)インタビュー『金利上昇は日本のチャンス』(ビジネス社、2025年)