健康のために、と霜降り肉より赤身肉を勧められる昨今。ところが、先日「ネイチャー医学」に赤身肉を日常的に食べると、動脈硬化性疾患リスクが高まる、という報告が載った。

 米クリーブランド・クリニックの研究者らが赤身肉に含まれる「カルニチン」に注目。動物実験と人を対象とした追跡調査から、カルニチンは腸内細菌に分解される過程で、動脈硬化を促進する「TMAO(トリメチルNアミンオキシド)」と呼ばれる物質を産生することを突き止めた。

 さらに、協力施設で心機能検査を受けた男女2595人の記録を解析した結果、血中のTMAO濃度が高いほど心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患リスクが上昇していたのである。研究者は、赤身肉を長期的に食べ続けると腸内細菌の勢力図が「カルニチンを好む」細菌群へと変化し、TMAOを産生しやすくなるとしている。

 ところが、この研究報告に米国の精肉業界と、カルニチンを活力サプリとして販売しているサプリ・栄養ドリンク業界がいっせいに反発。「小規模な研究結果で大げさな結論を出している」と非難の声をあげた。

 そしてその最中、今度は「米メイヨー・クリニック紀要」に「カルニチンは心臓発作後の健康状態を改善する」との報告が発表されたのである。

 同報告は、カルニチンの効果を検証した複数のプラセボ対象比較試験を系統的に解析したもの。それによると、カルニチンの摂取により、心筋梗塞発作後の死亡率が27%減少したほか、発作後に生じる不整脈の発症は65%、狭心症の発症が40%低下したという。

 研究者らは、カルニチンが心筋のエネルギー代謝を改善する可能性を指摘した上で「急性心筋梗塞発作後の再発予防や治療にカルニチンが利用できる」と主張。前述の研究結果については「動物実験がメインの報告」と一蹴した。

 ただ、対象や評価項目が違う二つの研究結果を単純に比較するのは無理がある。白黒をつけるには長期の追跡調査が必要だろう。赤身肉とカルニチン摂取の是非をめぐる論争はしばらく続きそうだ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド