薪鉄子(戸田恵子)が八木(妻夫木聡)に比べて溶け込んでない

東京出張の珍道中を経て、バッタバタのなか、『月刊くじら』創刊2号が無事発売された。
そこに掲載されたのは、気合を入れて取材を試みたガード下の女王・薪鉄子(戸田恵子)の談話ではなく、ガード下で子どもたちに読み聞かせをしている八木(妻夫木聡)の記事だった。
第77回を頭から振り返ろう。
東京出張の最終日。のぶの大事なカメラを奪った戦災孤児を追いかけた先に、八木がいた。戦災孤児たちにパンを与え、本を読んでいたこの男は戦時中、嵩とバディを組んでいた恩人である。
子どもたちになつかれている八木の取材をしたいとのぶは申し込むが、彼は拒否する。
嵩は粘って、薪鉄子をどう思うか質問。だが政治家に興味はないと八木はけんもほろろ。クールなところや権力から距離をとっているところは戦時中と変わっていなかった。
薪も飢餓対策がもっとも重要だと言っていたとのぶは伝えるが、「腹がいっぱいになればそれでいいのか」と逆質問。八木はそう思って食べ物だけでなく、教育もしているのだろう。
日本国憲法第25条で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」を子どもに与えたいという思いだろう。
余談ではあるが、第76回で鉄子は、今の政治は進駐軍との交渉や新憲法のことばかり考えているが、それより市民の生活だと批判的だった。
新憲法といえば。昨年大ヒットした朝ドラ『虎に翼』(24年度前期)。新憲法が誕生したとき寅子(伊藤沙莉)は涙していた。
八木に取材を断られたのぶと嵩はあきらめずに周辺取材を始める。すると、街の人たちは大人も子どもも八木に好意的だった。鉄子のことは皆、知らないと言っていたのとえらい違いである。
この時点では、鉄子はしっかりした理想を掲げ、女性たちの味方になってはいるが、庶民とはやや距離があり、八木のほうが街に溶け込んでいるように感じてしまう。でも、戸田恵子をキャスティングしているのだし、薪鉄子の活躍はこれから描かれるに違いない。まあ一長一短ということであろうか。そんなことを思いながらドラマを見ていく。