佐渡島:なるほど。実は僕もそれと似たようなことを感じて、ヒヤリとしたことがあります。僕は以前勤めていた出版社で、平社員のまま編集の仕事をしてきて、そして独立しました。一見、成功したと見られなくもない。実際、一時期、いろんな取材で取り上げていただきもしました。でも、まさに中田さんがおっしゃる通り。僕の半生を振り返ると、本当に人との出会いや、時の運がたまたまうまく作用した結果なんです。インタビュー記事だと、どうしても実績が盛られてキラキラしてしまうけど、その虚像を鵜呑みにしてはいけないなと。

「自分は他人を導ける」は本当?

ただ、一方で「プランド・ハップンスタンス(Planned Happenstance)」といった考え方もありますよね。世の中は、予測不能な偶然に溢れている。でも、だからこそ、「偶然」に遭遇した時に、それをチャンスに活かせるようちゃんと準備をしておくべきだというものです。

中田:もちろん、良きにつけ悪しきにつけ、行動しなければ何も始まりません。何かを得るためにアクションを起こせば、リスクも背負い込むことになりますが、次のステップに進んだり、大きなチャンスを得られる確率も上がります。だから、ポジティブな意味での行動・選択は、常にしていかないといけないと思います。

佐渡島:ただし、その方向性まで、他者がコントロールしようとしてはいけないと。どれほど自分が年長者であっても、他人を導けるという自負はいったん脇に置いたほうがよさそうです。

「行動・選択」が道をひらく

中田:相手の成長力を信じたほうがいい。あと、いくら“年長者”でも、人はいくつになっても成長できるし、変わることができます。他者の成長を見守るのもいいけれど、自分自身の成長や変化を楽しむマインドも大切なのかなと。70歳に手が届くこの年になったからこそ、つくづくそう思います。

佐渡島:最近、中田さんに変化はありましたか?

中田:実は昨年の秋に、住み慣れた神戸の街を離れ、夫婦で岩手県の花巻の農村に移住したんです。これまでのスーパーとコンビニ生活から一転、朝早くに起床して農作業生活です。ブドウ畑の杭を打ち、腰を伸ばすと東北の春が目の前に広がり、実に気持ちがいい。

佐渡島:それはものすごい変化ですね!

中田:とはいえ、いいことばかりが起こるとは限りません。そうした中で、妻と僕の価値観や思惑の違いも顕在化して、夫婦の危機を迎えそうでしたが……、何とかそれも乗り越えて、いま新たな展開が見えてきたところです。たった二人の間でも、「共通の土台」をつくるのは簡単ではありませんね。でも、やはり行動しないと見えてこないこともある。自ら学んでいるところです。

佐渡島:今日はありがとうございました!

(本記事は『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』に関する対談を編集した特別な記事です)