
日本たばこ産業(JT)が、国内の喫煙者減少の逆風にもかかわらず、堅調な成長を遂げています。国内市場が縮小に向かう中で、JTはどのようにして持続的な成長を可能にしているのでしょうか。成長の源泉に迫るとともに、今年行われた「医薬事業からの完全撤退」という決定の背景にある同社の戦略について考察してみたいと思います。(グロービス経営大学院教員 太田昂志)
JTが早期に築いた
「海外シフト」という勝ち筋
国内の成人習慣的喫煙率は、2013年の19.3%から2023年には15.7%へと、過去10年で約3.6ポイント減少しました。数字だけ見れば、国内のたばこ産業全体が縮小していくのは避けられない流れのように思えます。
しかし、こうした市場環境下でも、日本たばこ産業(以下、JT)はこの5年で着実に売り上げを伸ばしています。
2020年度の連結売上収益が約2.9兆円だったのに対し、2024年度は3.1兆円超え。さらに直近の2025年第1四半期決算では、前年同期比で売上収益が11.7%増、営業利益は15.3%増と、大幅な増収増益を記録しています。
JTの持続的な成長を支えた要因の一つに、「海外シフト」があると考えます。
JTグループのたばこ販売実績を見ると、2023年の総販売数量5401億本のうち、日本国内は637億本。実に約9割が海外市場での販売によるものです。売上収益においても、たばこ事業全体の7割強を海外たばこ事業が占めています(2021年時点、2022年以降のデータは未公開)。
これらの数値は、国内市場の縮小という不可避の構造変化に対して、海外市場へのシフトという意思決定が着実に成果を上げてきたことを示しています。
では、この「海外シフト」はいつから始まったのでしょうか。