「残クレアルファード」がヒットした理由

 さて、「残クレアルファード」というミームの発端となった「いろはス」さんの曲はどんな内容かというと、地方のマイルドヤンキーが背伸びしてアルファード(トヨタのでかくていかつい車)を買い、キラキラネームな家族を乗せてドライブしたり、ナンバーの文字を光らせて外見はいかにもブイブイ言わせたりしているが、査定額下がるから車汚せない……という世知辛さが歌われている。

 派生の曲たちもそれぞれの言葉で面白さを追求しているが基本的な切り口は同じで、残クレアルファードの外見と内実のギャップがもたらす悲哀を描写したものになっている。

 バズった理由はいくつかある。まずはAIが作成した動画の面白さであろう。

 映像があるから見ていて飽きないし、AIが作った動画の完成度の高さと、それと同じくらい興味深い所々の完成度の低さ・不気味さには一見の価値がある。美麗で見やすい映像だったかと思えば髪の毛の先がいきなり指になったり、登場人物の容姿が同じ人のはずなのに結構大幅に変わったりする(ちなみにAIはこれだけ進歩してもまだ人間の指を描くのが非常に苦手である)。

 次に、曲がかっこいい。本家「残クレアルファード」はしっとりとダークなヒップホップだが、派生した曲はそこにとらわれず様々なテイストで、ちゃんとヒットチャートに乗っても耐えるくらいのクオリティをそれぞれ有している。

 個人的に一番好きなのは「現金一括アルファード」という曲で、歌が暑苦しいのの一歩手前かちょっと超えているくらいなのだが、その分勢いがあって聞き入ってしまう。メロディも秀逸で普通に超いい曲である。

 これらの曲・トラックをAIが作っている点にも注目したい。最近はAIがものすごくいい曲を量産する時代である。生身の人間が作る曲・トラックの価値がそのせいで相対的に下がってほしくはないが、なかなか無視しがたいその働きぶりである。

 残クレアルファードとその派生曲は、公道では無敵のオーラを放つアルファードを下げる……とまではいわないまでも、「無敵の存在ではなく弱みもある普通の車」としてユーモラスに歌い描いた点も、大勢に受け入れられた理由となった。

 かくいう私も公道でアルファードを見かけると100%警戒する。車に詳しくない私がアルファードとヴェルファイア(と次点でノア)をそれと認知してわざわざ警戒するようになったのは、ルームミラーにあの特徴的なフロントを初めて見てその威圧感に驚き、さらに2、3台のアルファードに立て続けに嫌な運転をされたからで、ちょっと落ち着きのないヤカラっぽい運転をする人が確率的に高い車種というイメージを持つに至った(あくまで個人的な感想です)。

 しかしそれからマナーのいいアルファードもたくさん見てきたので、「先入観が強すぎたのかもしれないし、決めつけて見るのはやめよう」とフラットな気持ちで接しようとするとやっぱり嫌な運転をされたりして、まあ良くも悪くも目立つ車なのである。