外交面だけではない
インド国内の2つの問題

 インドの国際関係における未成熟さは、外交だけでなく国内にも根を張る。主な要因は2つある。

 1つ目は、行政制度が機能不全に陥っていることである。

 法律はあっても運用されず、官僚機構は非効率で汚職も多い。企業にとっては、インド市場は「人口は多いが不確実性も高い」ため、長期投資に踏み切る上での障壁となっている。

 2つ目は、モディ政権下で強まるヒンドゥー至上主義の影響である。インドでは宗教的分断が加速しており、イスラム教徒排除の動きが最も激しい国の1つとなっている。

 このことは「強権国家中国」に対抗する「世界最大の民主主義国家」としての国家ブランドを傷つけている。

 さらに、インドの地方行政は州ごとに制度や規制が異なり、企業活動にとっては「見えない障壁」が多い。

 たとえば、スズキはインド市場で成功した数少ない日本企業だが、現地での労働争議や法制度の不透明さに悩まされてきた。ホンダやNTTなども、インド進出後に撤退や縮小を余儀なくされた。

 インド市場は法律外のローカルルールや障壁があまりにも多く、また、官僚や公務員が恣意(しい)的な運用をしていることで、国際ルールや市場原理が通用せず、語弊を恐れずに言えば、近代国家というより「土着の集合体」のままである。

インドの発展を難しくする
「人的資本」の地域格差

 インド経済は、内需主導の成長を基本とする「ムンバイ・コンセンサス」に基づいている。これは、中国の輸出主導型「北京コンセンサス」や、アメリカの市場自由主義「ワシントン・コンセンサス」と対比されるインド独自の成長モデルである。

 低所得層への分配重視という意味では意義深い一方で、技術革新や国際的影響力という観点では限界が明白である。輸出競争力を欠いた経済は、国際社会での「地政学的重み」を獲得するには不十分である。

 特に深刻なのは、インドの「人的資本」の質に大きな地域格差があることである。

 インドはもともと中流層が他国に比べて薄い典型的な格差国家である。中間層が薄いと、先進国で開発された製品が拡がりにくく、経済成長の効果が国内消費に回りにくい。

 都市部では高度なIT人材が数多く輩出されている一方で、地方では初等教育ですら十分に普及しておらず、識字率を高めることもままならない。また、高度IT人材を吸収できる企業も少なく、人材流出によってインドの発展には寄与しにくい。

 医療や交通インフラも同様で、都市部と農村部の格差は著しく、国家としての統合力を欠いている。こうした二重構造が、国家としての生産性を大きく引き下げている。

 インドは一般には「世界最大の民主主義国家」として、強権国家の色合いが強い中国よりも高く評価されがちだ。しかし、その民主主義の「質」については疑問符がつくことが多々ある。