
米AI株相場は、まだ上昇トレンドをたどれるか、関税の悪影響が顕在化する局面をどうしのげるかを問われる場面が来る。銘柄・業種間でリバランスが発生しやすく、単純な相場ではなくなる。高値警戒の米国株からの分散投資先として循環物色されてきた日欧株、一見堅調でも根本問題を抱えたままの中国株の相場を、米国株と通貨の観点から評価する。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)
変容しつつある米国のAI先導相場
進むリバランスの買い
米国株を牽引してきたAI相場が変容しつつある。世界の株式相場は米国をトップとする雁行相場が続いている。その米国株の行方が、欧州、日本、中国の株式相場にどう影響するかを考える。
米国株は、2020年のコロナ禍で急落して以降、超ド級の金融緩和と財政出動で急伸した。22年には、インフレ高進を抑えるべく利上げが進み、株価は反落に転じた。しかし23年には、高金利下でも、生成AI相場が始まり、今に至る。
AIは、経済社会にとって歴史を画期する大テーマといえる。高金利下での株式相場に慎重な筆者も、AI関連需要は、金利高や景気悪化のサイクル論を超越すると判断し、AIに焦点を絞る投資を推奨してきた。
実際、AI以外の銘柄・業種の株は、23~24年には伸び悩んだ。AI関連需要は依然として旺盛であり、AI相場も上昇基調を保っている。しかし、明快な人気テーマだけに、相場が速く高く祭り上げられやすく、単純な相場でもなくなっている。
AI相場が投資家にとって難しいものになると、割高なAIコア銘柄を売り、他のAI・テックなど周辺銘柄、さらに景気・バリュー株を買うリバランスが行われやすくなる。景気・バリュー株の比重が相対的に高いダウ工業株30種平均の最高値更新もその表れといえる。
AI銘柄内でもリバランスは起こる。相場を主導する汎用AI半導体のエヌビディアに対して内製型AI半導体銘柄、AI半導体に対して一般半導体、半導体に対してAIソフトウエア、ソフトウエア内での優劣という枠組みでのリバランスの入れ替えが盛んになっている。
「人気テーマの罠」として祭り上げられた相場は、蓄積される売り圧力をリバランスによってガス抜きできる面がある。しかし、リバランスによる主要花形銘柄の下落を、単に局面的現象として割り切れるかが問われる、微妙な場面が増えている。
そこにトランプ政権の撹乱が加わる。4月にはトランプ関税ショックに翻弄されて、株価は急落した。その後、関税の不確実性が色濃く残っても、関税引き上げ率の緩和ディール、米AI大型ディール、設備投資に資する減税、規制緩和など政策支援で、株価は上伸してきた。
ただし、今、関税から経済への悪影響が顕在化する数カ月間を迎えようとしている。景気、雇用が悪化すれば、利下げが進む程度に応じて、株価は中期的に支えられると見る。しかし目先は日々、相場が祭り上げられている程度に応じて、滑落リスクに神経質になりうる。
次ページでは、米国株にけん引されてきた日欧中の株価そして通貨動向を分析し、今後の行く末を検証する。