
AIに意思決定や経営判断を任せることはできるのか?キリンホールディングスでは役員の仮想人格をAIに読み込ませ、役員会などで経営判断を下す用途に使い始めた。三井住友銀行(SMBC)では中島達CEOの人格を読み込ませた「AI-CEO」も登場。驚きのその活用法とは。特集『DX2025 エージェントAIが来る』(全21回)の#5では、もうそこまで来ているAIが企業を経営する姿について、2社の事例と共に展望しよう。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
新入社員の悩み相談から業務知識、ランチメニューまで
なんでも「本人らしく」答えるAI中島達CEO
三井住友銀行(SMBC)で1週間に数千回使われるというあるサービスが話題を集めている。Microsoft Teams上で社員が使える「AI-CEO」だ。中島達・三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)社長グループCEO(最高経営責任者)の過去の発言、その背景にある考え方、周囲からの印象などのデータをRAG(検索拡張生成*1)に投入し、新入行員の心構え相談や悩み相談、業務用語の質問や顧客訪問時のアイスブレイク提案から、お昼のメニューの相談まで中島社長が何でも答えるチャットボットを開発したのだ。
行員がAIを業務に活用することを身近にするとともに、中島社長に接することがない人でも、その人柄に親しみを持ってもらうことが目的だという。
ウイット、ユーモア、面白い発言が出るように意識的にプロンプトを工夫し、もっともらしいことしか言わないChatGPTにならないよう、相当な時間をかけて作り込んだ。「AIに社長を任せて引退するか、いやまだ早いか?」「今日のお昼はトンカツがオススメですよ」など、回答の最後にあたかも中島社長本人のような口癖やジョーク、過去の発言が足される内容となっている。親しみやすさを維持するために、あえて最新のChatGPT-5ではなく一つ前のChatGPT-4oをベースに使っているこだわりようだ。
AI-CEOは、現在SMFGで進められている一連のAI関連施策の一つだ。他にもベテラン営業部長の暗黙知のノウハウや過去の顧客取引情報などを組み込み、営業マンをサポートする「AI 上司」も2025年度内にSMBCでの試行開始を予定しているという。
AIは本当に社長や役員になれるのか?つまりAIに経営判断や意思決定をどこまで任せられるのか。単純な自動化の一歩先にどのようにして踏み込むのか。当然のことながら、現在の会社法ではAIが取締役に就任して直接の意思決定を行うことは許されていない。だが、経営幹部が経営会議にAI役員の議論や提案を生かすということは、既にキリンホールディングス(HD)で現実となっている。
キリンHDでは、なんとAIが関与した論点が役員会議の重要決定事項にも採用され始めているというのだ。一体どのような内容なのか、さっそく次ページから見ていこう。
*1 大規模言語モデル(LLM)が回答を生成する際に、外部のデータベースや文書から関連情報を検索して引用することで、情報の正確性、最新性、信頼性を高めるAI技術