
「中長距離LCCは成功しない」――その常識を打ち破ったのが、日本航空(JAL)傘下のZIPAIR Tokyo(ジップエア)だ。同社は欧州で撤退が相次いだビジネスモデルを、うまく日本・アジア・北米間で転用。2025年3月期の業績ではJALを上回る収益性を実現している。急成長を支える突破口はどこにあったのか。そして次に狙う新たな就航都市とは。特集『ANA JAL危機 過去最高業績の裏側』#5では、ジップエアの成長戦略を西田真吾社長が語った。(聞き手/ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
営業利益は2年で4.5倍
ジップエア成長の秘訣を公開
――日本航空(JAL)グループで国際線専門の格安航空会社(LCC)のZIPAIR Tokyo(ジップエア)が設立された背景を教えてください。
ジップエアは2020年から商業運航を始めていますが、会社を設立したのはコロナ前の18年です。われわれは最初からアジア・欧米に就航する「中長距離LCC」を志向していました。
周りを見渡しても当時の日本には中長距離LCCはありませんでしたが、このビジネスモデルを研究し、日本でやったらチャンスがあると思っていました。
もちろん12年ごろからPeach Aviationやジェットスター・ジャパンなどのLCCはありましたが、彼らは長距離便を飛ばしていませんでした。JALの中で、本業であるフルサービスキャリア(FSC)の他に、次の成長のためにはどこに投資すべきかを議論しているときに、中長距離LCCが選択肢として挙がりました。
――破綻経験後のJALには変わらないといけない危機感があったのでしょうか。
そうですね。ご存じの通りFSCは重要な事業ですが、成熟している事業でもあって、成長率の観点ではLCCが急激に成長してきた時代でもありました。
当時はFSCのノウハウを別の領域に転用することを考えているチームがあり、17年5月にはJALとして中長距離LCCをやろうと決めました。実際に社外に発表したのは18年5月ごろだったと思います。
――では、なぜ各社は中距離LCCをやらないと思いますか。
欧州では中長距離LCCが何度か誕生しましたが、そのたびにFSCとの勝負に敗れて退場させられてきました。ノルウェー・エアシャトルが21年に欧州・北米間の大西洋路線から撤退したのがその典型例です。
そうした事例から、中長距離LCCは成功しづらいモデルであるとの常識が航空業界には元々あります。ジップエアができたときも、メディアや学者の方々に「成功は厳しい」と評論されてきました。
――中長距離LCCが厳しいとされてきた中、日本で成功すると思った理由は。
これには、飛行機の航続距離が大きく関係しています。
欧州・北米間ではエアバスA321LRなどの小型機でも大西洋を渡れる一方で、太平洋は航続距離の問題で小型機では渡ることができない。われわれは太平洋を渡ることができるボーイング787を使用しているので、大量輸送で単価を下げることが可能になります。ですので、中長距離LCCをやる上で日本は絶妙な場所にある。
――実際に事業は軌道に乗っていますか。
25年3月期の売上高営業利益率は約16.6%でしたので、JAL本体よりも高い利益率を達成しました。
――ジップエアの業績は、この2年で売上高が2.4倍、営業利益は約4.5倍になっています。急成長を遂げているのはなぜだと西田社長はお考えでしょうか。
欧州では成功しないといわれてきた中長距離LCCモデルを日本の地理的特徴にうまく合わせることで急成長を遂げたジップエア。だが、収益性の高い理由はそれだけではない。そこにはJALではできなかった販売戦略が関係している。次ページではその理由と今後の就航都市拡大への意気込みを西田社長が語る。