政府は、一般事業会社に公的資金による資本注入支援を行う準備を進めている。世界同時不況で経営難に陥った企業を国が信用補完し、再生を促すのが狙いという。だが、返済義務もなく、結果で評価するしかない資本の形での公的資金注入が、モラルハザードを招く危険はないのか。また、そもそもこの施策は必要なのか。かつて産業再生機構のCOOとして数々の企業再生に携わった冨山和彦氏に聞いた。

冨山和彦 経営共創基盤 社長
冨山和彦 経営共創基盤 社長
撮影/宇佐美利明

―政府は、日本政策投資銀行などを使って、事業会社に公的資金による資本注入支援を行う準備を進めている。産業再生に携わった経験から、どう考えるか。

 私が関わった産業再生機構には、主に二つの機能が与えられていた。世間の注目を集めたのは、債務調整機能だ。経営難に陥った企業のフェアバリューを算出し、過剰な債務を金融機関などに債権放棄させた。もう一つは目立たなかったが、出資機能だ。企業再生においては、この出資機能が効いた。

―企業再生には、債務調整機能よりも出資機能が有効なのか。

 バランスシート(BS)が過剰債務で痛んでいるだけなら、債務調整だけでいい。だが、プロフィットアンドロス(PL)が痛んでいる場合、つまり、事業の不振で売上、利益が落ち込んでいる場合は、利益が出る構造に改革するために、コストカットをするなり事業転換をするなり手術が必要になる。

  工場を閉めるにしろ、人員を切るにしろ、構造改革には多大な費用が必要だ。したがって、第三者によるリスクマネーの供給が必要になる。産業再生機構の場合は、与えられた出資機能によってリスクマネーを供給し、例えば、三井鉱山は石炭の輸入会社からコークスメーカーに、カネボウは繊維事業などを切り捨て化粧品メーカーに構造転換させた。