高市財政目標「債務残高対GDP比」達成はインフレ頼み、PB黒字化“目標撤回”がもたらす財政リスクPhoto:SANKEI

高市政権、単年度のPB黒字化目標取り下げ
10年国債利回りは2%に迫る、18年半ぶり高水準

 高市政権は11月28日、物価高対応などの総合経済対策やその財源を盛り込んだ18.3兆円の2025年度補正予算を閣議決定したが、10年物国債の金利など長期や超長期の金利が急騰している。

 12月8日には新発10年国債の利回りは一時、1.970%まで上昇し18年半ぶりの高水準になった。

 金利急騰の背景には、積極財政路線を掲げる高市早苗首相が、財政健全化目標を、従来の「基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)黒字化」から、「債務残高対GDP比率低下」に切り替える方針を表明し、市場で財政拡大が進むとの見方が強まっていることがある。

 高市首相は「責任ある積極財政」を唱え、財政規律にも配慮する姿勢を示しながら、財政健全化は、単年度のPB黒字化を目指すよりは、数年単位でそのバランスを確認する方向に変え、財政の持続可能性は、債務残高対GDP比を引き下げていくことで実現するという。

 だがこの“新目標”の実効性は怪しい。例えば、名目GDP成長率が金利を上回っている状況であれば、PBが赤字であっても債務残高対GDP比を引き下げることは可能だ。25年度の現状や26年度を展望すれば、2~3%程度の名目GDP成長率が続き、実効利子率(利払い費を債務残高で割ったもの)も1%程度と考えられるため、ある程度までのPB赤字であれば債務残高対GDP比は低下するだろう。

 しかし、そのような状況が続くとは限らない。名目GDP成長率が高まると、それに応じて金利も徐々に上昇するのが一般的だ。また、過去45年間で国債の実効利子率が名目GDP成長率より低い水準だったのは13年だけで、全期間の29%にすぎない。

 中長期的には、実効利子率が名目GDP成長率を上回ることは十分に予想され、そうなると、債務残高対GDP比の安定的な引き下げにはやはりPB黒字化が必要だ。

 さらに問題なのは、近年の名目GDP成長率の上昇がインフレに依存していることだ。債務残高対GDP比は低下しているが、国民生活を考えると素直に喜べない。インフレは現預金の実質的な価値の減少などを通じて、物価高に苦しむ国民にさらなる負担を負わせてしまう。

 財政健全化の“新目標”は大きなリスクをはらむものだ。