Photo by Tohru Sasaki
日本製鉄による米USスチール買収が、プラント物流・メンテナンスの雄である山九に新たな局面をもたらしている。日鉄の米国進出に伴う巨額の設備更新案件。4%の株式を保有するパートナーでありながら、中村公大社長は「相当なリターンがなければ難しい」と冷静な姿勢を崩さない。背景にあるのは、日本の産業を支える「技能者」の価値が正当に評価されていないという構造的課題だ。国内コンビナートの老朽化と人手不足が深刻化する中、協力会社の事業承継まで支援し、現場を守り抜こうとする同社の「現場第一主義」の真意と、急騰する株価の裏側にある経営改革の全貌を、特集『物流大戦』の本稿で追った。(聞き手/エネルギージャーナリスト 宗 敦司、ダイヤモンド編集部 金山隆一)
2年で株価2倍、創業108年企業が覚醒か
「はい」か「イエス」で築いた現場の信頼
――山九は巨大構造物の物流、そのための港湾整備など大きなプロジェクトを手掛けているイメージがあります。どういう会社ですか。
山九は創業108年となりますが、一貫して製鉄所やコンビナート建設の現場仕事を請け負ってきました。設備を持っているお客さまから「困ったときの山九」と言われていますが、現場で起きる課題の解決が可能な企業集団という自負があります。
実際に9000トンの橋梁を輸送した経験もありますが、そういう大型構造物の物流の仕事は売り上げに占める比率が実は小さい。重量物を輸送するスキルを持ってはいますが、大きいプロジェクトだけがメインの業務ではありません。それこそ工場構内のライン稼働状況の対応など小さい仕事で信頼を積み重ね、それが大きな仕事を生んでいる。課題解決のスキルを持つ人材を大量に抱えていることが、われわれの強みです。
私が入社した約30年前は、お客さまに対しては「はい」か「イエス」と言えと教わりました(笑)。「できます」とお答えした後に、社内に持ち帰ってどうやるかを考えてきたのです。
石油化学プラントの場合、設備を全て止める「シャットダウンメンテナンス」の時期があります。そのときは普段工場構内で働いている人たちは暇になるので、その人たちにメンテナンスや細かい整備をお願いすることで、余剰人員を解決するソリューションにもなります。
物流や操業の仕事はデーリーですが、定修(定期修理)は2~3年に1度、高炉(更新)は20年に1度しかありません。20年間のデーリーの信頼の積み重ねが、巻き替えのような大きな仕事につながっています。
――この2年で株価が2倍になりました。アクティビスト(物言う株主)の介入や配当性向の引き上げなどが要因ですか。
私には野村證券に出向した経験があります。エクイティについては成長投資に使い、使わない場合は株主に還元する。それを長らくしてこなかったのですが、私がある程度差配できるようになったため、2026年度までの4年間累計で総還元性向100%水準、配当性向水準40%を決めました。
株価が上がった一番の理由はこの2年間、IR(投資家向け情報提供)で海外投資家の人たちと直接面談し、彼らの意見を取り入れて経営改革したためです。
意見を言って実際に企業が行動を起こしてくれれば投資家冥利に尽きる。人対人のコミュニケーションをしっかりとできていることが、市場から一番評価されているのだと思います。
もう一つは、財務や資本の政策の話をまともにできる経営者だと認識されていること。投資家は「何かあればこの人に話せばいい」という信頼感があるから株を買ってくれる。しかもオーナー会社なので、トップがコロコロと代わることもない。
「10年後もあなたがトップにいるのであれば買います」と言われたこともあります。IRミーティングは米国、欧州、アジアの各地で年1回、国内でも半期に1回実施しています。
――業界ではプラントメンテナンスの人材不足が大きな問題になっています。
日本製鉄の米USスチール買収により、米国で大規模な設備更新プロジェクトが動きだす――。長年、日鉄の現場を支えてきた山九にとって、これは巨大な商機か、それとも回避すべきリスクか。中村公大社長は、現地の具体的なリスクを挙げ、慎重な天秤にかける。次ページでは、米国案件への「条件」と、業界全体に漂う「技能者の低評価」というゆがみに立ち向かう同社の次なる一手について詳しく聞く。







