改正が目的化する人との間に溝が生まれる
開沼 改正を目指したいという人と、そもそもの目的は何かを問いつづける磯部さんのような人。どう考えても後者のほうが冷静かつ合理的で、自分にとっての利益を最大化できるはずだろうと思いますが、実際は、前者のほうが頑固でノイジーで、存在感を発揮し続けてたりしますよね。原理主義化しているから、「改正を目指さない」なんて言った日には、「敵」や「悪魔」に認定されてしまいかねない。両者には溝が生まれそうですが、いかがですか?
磯部 そうですね、その通りだと思います。
開沼 これは、もしかしたら他の問題にも通じていることかもしれません。2冊目の中でも、そういう問題意識を持ちながら「あとがき」を書かれているようにも思います。こうした葛藤や、個々人が良かれと思っていることが、結果として全体の方向性を見失わせてしまい、解決し得ない問題について、磯部さんはどうしていこうと考えていますか?
磯部 現行の風営法に問題があることは確かで、それも、中・長期的に見れば解決しなければいけません。それをほったらかしにしていたら、この国の盛り場が、ひいては経済が発展しないことは目に見えています。一方で、今夜も店を開けなければいけない風俗営業種の人たちにとっては、いつ成されるかもわからない風営法改正よりも運用レベルが重要で。それでも、その両輪を動かしていかなければいけないでしょう。
ただ、はっきり言って、法改正に関してはどうすればいいのかわからないというのが現状です。例えば、社交ダンス業界の人たちは、長い間、風営法改正運動を戦ってきました。Let's Danceが掲げている「風営法からダンス項目を削除して欲しい」というハードルの高い要望はもともと彼等が掲げていたものです。しかし、それは叶わず、条件闘争的に、免許制という規制緩和を勝ち取った。
その後も社交ダンスは様々な問題を抱えていますが、今のようなある程度のところにくるまででも、長い時間を要した。それに比べて、クラブと風営法の問題は表面化したばかりです。運動の持続可能性についても考えなければいけない。かと言って、自己目的化してはいけない。そのためにも、法改正のような大きなことだけではなく、所轄と、あるいは近隣とどう付き合うのかといった、小さなことについても考えたほうがいいと思うのです。
開沼 そのバランスだと。
磯部 もちろん、事業者が声を上げることの難しさはわかっています。だからこそ、僕のような立場の人間ができることをしたいと考えています。
第3回では、原発問題にも通じる運動と現場の溝にさらに踏み込みつつ、オタクが切り開いたハコのいらないダンスの形、性風俗としての“チャラ箱”など、文化としてのクラブを読み解く。次回更新は7月22日(月)を予定。
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