TFAの参加者の34%は
教育問題の伝道師になる

藤沢 企業の取材をしていてよく思うのですが、積極的に人を外に出す企業は、価値観の共有がしっかりできています。価値観が同じだと、外に出た後も協力できるので、ちっとも困らないというか、むしろ世界に味方が増えていくわけです。

松田悠介(まつだ・ゆうすけ)
全米で就職ランキング第1位になったティーチ・フォー・アメリカ(TFA)の日本版「ティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)」
創設代表者。1983年生まれ。
大学卒業後、体育科教諭として中学校に勤務。体育を英語で教えるSports Englishのカリキュラムを立案。その後、千葉県市川市教育委員会 教育政策課分析官を経て、ハーバード教育大学院修士課程(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修士号を取得。卒業後、
外資系コンサルティングファームPricewaterhouseCoopers にて人材戦略に従事し、2010年7月に退職、現在に至る。世界経済会議Global Shapers Community メンバー。経済産業省「キャリア教育の内容の充実と普及に関する調査委員会」委員。

松田 じつはティーチ・フォー・ジャパンがやろうとしていることも、教育について同じ問題意識を持つ人を社会に増やしていくことなんです。

藤沢 どういうことですか。

松田 私たちは優秀で情熱のある人材を学校に先生として2年間配置するプログラムをやっています。プログラム修了後は、教育現場に残ってもいい、他のところに転職してかまいません。

 アメリカの場合、参加するフェローのうち、最初から教育現場に残り続けるつもりの人は7%しかいませんが、2年後に実際に教育現場に残る人は66%に達しています。

藤沢 最初は腰掛けのつもりで参加したけど、実際にやってみて本気になった人が6割いるということですね。

松田 はい。その一方で、「残りの34%の人はどうなのか。結局、外に出ていくじゃないか」という批判もあります。ただ、彼らも教育が抱えている問題を現場で目の当たりにしているので、外に行っても当事者意識を持ち続けて、教育とは別の分野から教育問題について発信してくれるんです。

 たとえばプログラムの卒業生は、教育長や政治家になって教育問題に取り組んだり、ビジネスリーダーになって学校に寄付をしたりしています。教育が抱えている問題を解決するには、社会全体を巻き込むことが必要不可欠です。その意味で、同じ当事者意識を持った人を、いかに外に出していくのかということも重要なのです。

海外に行って
視野を広げよう

藤沢 試し食いの話に戻ると、日本の中は「こうやって生きるべき」という空気が強くないですか? 先日、ある大学で講義をしたら、学生から「先生はやりたいことをやれというけど、親は大企業に行けという。本当にやりたいことをやってもいいんでしょうか」と聞いてくる。これじゃ気軽に試し食いもできません。

松田 たしかに日本には、自分の進路さえも自分で決めにくい空気がありますよね。うちの親は「お金も口も出さない。好きなことを勝手にやれ」というタイプでしたから、そのあたりは気楽でしたが。

藤沢 私は海外に行くことをすすめたいですね。海外ではいろんな人がいるので、「ああ、こんな生き方もありなのか」という例にたくさん出会えます。日本の中の狭い価値観で判断する必要はないはずです。

松田 そうですね。アメリカなどは本当に多様な社会なので、試し食いの選択肢も一気に広がると思います。

 ただ、本当は日本の中にいながら多様な選択肢を選べる社会になれば理想です。前回、少し話しましたが、日本人が海外に行くだけでなく、日本に外国人の方がたくさんきてくれれば、日本でもダイバーシティが実現される。そうなれば、日本も多様な生き方が認められ、さまざまなことにチャレンジしやすい社会になるのではないかと思います。