成長戦略の議論の中で、設備投資をいかに増加させられるかが、大きな焦点となっている。しかし、政府の説明を聞いていると、設備投資の増加それ自体が目的化しているような印象を受ける。「経済政策が成功している証左は設備投資の増加であり、その証左を得るために設備投資の増加が必要」という論理のように思えるのだ。しかし、これは、目的と手段を取り違えた発想である。
そもそも、何のために設備投資が必要なのかが考えられなければならない。その答えを得るためには、今後の日本の産業構造をいかなる方向に誘導するかが明確にされなければならない。
非製造業を中心にすれば、経済政策は大きく変わる
成長戦略を考える場合に重要な視点は、製造業と非製造業を区別することだ。以下で見るように、リーマンショック後の日本経済において、製造業と非製造業はかなり異なる動向を示しているからだ。
今後の日本経済成長の主役は、製造業ではなく、非製造業であると考えられる。そう考えられる最大の理由は、以下で営業利益率の分析を通じて指摘するように、東日本大震災以降、電気料金が上昇し、電力多使用産業である製造業の国内生産の条件が悪化したことだ。この条件下で経済的に合理的な方向は、製造業を国内に引き留めることでなく、非製造業(とくにサービス産業)の生産性を高めることだ。
この視点に立てば、経済政策の在り方も大きく変わってくる。
第1に、円安の是非に関する評価は180度変わる。円安によって利益を受けるのは製造業であり、非製造業は逆に円高によって利益が増大する傾向があるからだ。
第2に、雇用に関しては、製造業の縮小を前提として、非製造業を受け皿と考えるべきだ。その際に重要なのは、非製造業の生産性を高めることである。そのためには投資が必要だ。
1990年代以降の情報通信技術の革命的な発展によって、ITを活用すればサービス産業の生産性を大幅に向上させ得ることが明らかになった。アメリカの流通業は、積極的なIT投資を行なって生産性を高め、1990年代以降のアメリカ経済をけん引する主役になった。原理的には日本でも同様のことを期待できる。
したがって、設備投資の増加は、非製造業を中心に考えられるべきだ。