潰されても、新しいクラブに移るだけの若者たち
開沼 なるほど。でも、普通の音楽を楽しむというレベルのときにも、少しはそうした要素はあったわけですよね?
磯部 もちろん、音箱でも社交は重要なコンテンツなのですが、どちらかというとライブハウスに近いノリなので、ナンパは「ウザい」という空気があるんですよ。とは言え、音箱でチャラ箱的なイベントをやることもあるので、明確には分けられないんですけどね。
とりあえず、CDが売れなくなり、クラブに人が入らなくなったと嘆くひとがいる一方で、10代は「踊ってみた」に夢中になり、不良っぽい子たちはチャラ箱に足繁く通うという現象が近年に起りました。そして、それは、いわゆるクラブ・カルチャーのメディアではほとんど取り上げられず、ないことにされています。
開沼 「女性にとっての性風俗」としての役割は急にでてきたものではない。
磯部 まぁ、ディスコからの流れでしょうね。
開沼 ジュリアナのようなディスコにも?
磯部 ジュリアナが人気だったのは、ディスコという言葉が使われていた最後の時期にあたりますが、そういう面もあったでしょうね。
開沼 2000年代後半のブームがやって来るまで、その動きはどこかに行っていたんですか?消えたものが、もう一度戻ってきたという認識でいいですか?
磯部 先程、言ったように、ヒルズ族が登場して、それがいまどうなっているかというと、「ネオヒルズ族」のような、さらに下世話なものになっているわけじゃないですか。<FLOWER>事件に象徴される、チャラ箱の過剰化も同様だと思いますよ。
開沼 “ゲスい”ものが分離されて機能分化し、ひょっとしたら固定化され、そして潰されていくという動きの連続のなかで、社会は進んで行くしかないのかなと思いますね。
磯部 そうですね。警察は風営法を変えたがらず、目立ったものは潰すという傾向は続くでしょう。しかし、人間は、そして、風俗は以外としぶといものです。
開沼 そうですね。
磯部 経営者は潰されたら新たな脱法方法を編み出しますし、遊ぶ側も新たな遊び場を見つけます。<VANITY>が摘発された夜、店を追い出された若い子たちは、「ちょ~運わりーな。仕方がない、あそこのクラブに行こうぜ」と別のチャラ箱に向かっていったそうです。そこで、警官に向かって「なんでクラブを規制するんだよ!」と文句を言ったり、「風営法反対!」というシュプレヒコールを起こしたり何てことはあり得ません。
あるハコが摘発で潰されれば、そこには新しいハコが入ります。しばらくしたら、誰もが前のハコのことなど忘れてしまうでしょう。風俗ってそういうものだと言えばそういうものですよね。抜いても抜いても生えてくる雑草のような力強さがある。
開沼 そうですね。ただ、そうだとすると「じゃあ、放っておけばいいのか」と、つまり、放っておいても楽しいことは残るんだぜ、という議論にもなりませんか?
磯部 そうとも言えると思いますよ。ただ、社会のシステムはより良くなるべきで、だからこそ、風営法も改正されるべきです。
開沼 なるほど、そうですね。
磯部 ただし、その運動は、チャラ箱のようなクラブもあることを認めたうえで進めなければいけません。だからこそ、僕は、風営法からクラブを外すのではなく、風営法の許可の条件を緩和し、クラブがそれを取りやすくするという法改正の方向を推しています。