チャラ箱のギャル付け、女性の性風俗となるクラブ
磯部 市場という観点からしても、クラブは淘汰されつつあると思うんですよ。日本では年々、若者文化におけるクラブの存在感が薄くなっているように見えますが、果たしてそれが風営法だけのせいかと言うとそうではない。
一方で、日本はいま、ダンスミュージック・ブームの真っただ中にあります。例えば、きゃりーぱみゅぱみゅや初音ミクが人気ですが、そのような若い世代が支持しているダンスミュージックは、音楽的にはダンスミュージックをベースにしていたとしても、「ハコ」を必要としてないんですよ。ニコニコ動画の「踊ってみた」なんかもそうです。
それらにとってはネットこそが新しいハコになっている。こうした、日本の若者の嗜好が進めば、クラブは自然に淘汰されていくでしょう。対して、大きなところでは「ニコニコ超会議」、小さなところでは「渋家(シブハウス)」なんかが、その盛り上がりを3次元的なハコに還元しようとしていますが、既存のクラブも真剣に考えなければいけないことだと思います。
開沼 そこはとても興味深い指摘です。あくまで「クラブでは踊ってはいけない国、日本」の話をされていて、クラブ以外の場で、クラブという場所、クラブというツールを使って得られる楽しさや便利さのように、代替するものを発明できればいいという話になってくるわけですね。
磯部 また一方で、初音ミクを好きな人がオタクなのかどうかはさておき、彼らがDQN(ドキュン)と呼んで敬遠しがちな若者の間では、ダンスミュージックがかかるハコのニーズが高まっていたりもします。そして、そこでは、当然、風営法との摩擦が表面化しています。ただし、それは、<Let's Dance>の賛同人になっていたDJが出演するようなクラブではなく、いわゆる「チャラ箱」と呼ばれるものです。開沼さんは「ギャル付け」をご存じですか?
開沼 いえ、はじめて聞きました。読者のためにも、チャラ箱からもう少し詳しく説明をお願いします。
磯部 前回も言ったように、クラブはディスコのオルタナティヴとして登場しました。対して、ディスコの流れを引き継いだようなハコも健在で、ちょっとややこしいのですが、それらもいまはクラブと呼ばれています。両者の違いは、言わば、メイン・コンテンツを「音楽」とするか、「社交」とするかで、差別化するために、前者は「音楽箱」や「音箱」、後者は「チャラ箱」や「ナンパ箱」、あるいは、「ディスコ箱」とラベリングされています。
近年、六本木から西麻布にかけたエリアでチャラ箱のブームが起こりました。その象徴が、昨年9月に殺人事件が起った<FLOWER>であり、今年5月に摘発された<VANITY>でした。そして、そのような店の中には、VIPルームをとると、店員がフロアで踊っているお客さんの女の子に「VIPで飲みませんか?」と声をかけて連れてきてくれるところがあるんです。それが「ギャル付け」です。女の子の中には、そのシステムの存在を知っていて、「お金持ちと知り合いになれるかも」「シャンパンをおごってもらえるかも」と意識しながらチャラ箱に足を運ぶ子もいます。
開沼 それはここ10年くらいで生まれてきた流れですか?
磯部 昔からあったようですが、近年、定番化したようです。
開沼 上から見て「あの子」と指名するなんて、ドラマで描かれる「ザ・金持ちの遊び方」ですね。
磯部 その背景には、ヒルズ族のような新しい富裕層の誕生がありました。彼らの遊び場として、チャラ箱のVIPが人気になったんです。
開沼 そう考えていくと、それは、いわゆる純粋に音楽・踊りを楽しむという意味でのクラブとはまた違いますね。
磯部 そうですね。キャバクラ、あるいは、出会い系喫茶のような側面もあると思います。ただ、チャラ箱をテリトリーとしているナンパ師の御子柴清麿さんという方に取材したことがあるのですが、彼が言っていたことで特に面白かったのが、「クラブは女性にとっての性風俗だと思う」という話です。
女性向けの性風俗は存在しますが、かなり、ハードルが高いですよね。それに対して、チャラ箱は気軽に行けるし、女の子のほうもギャル付けの存在や、ナンパをしてくる男がウヨウヨいることを知っています。そして、誘ってくる男に対して、OKを出すかNOを出すかの選択権は、むしろ、女の子たちにあるんだと御子柴さんは言うわけです。
つまり、男性向けの性風俗のように女の子だけが消費されているのではなく、女の子のための性風俗としても機能しているのだと。これは、ジェンダーの非対称性の解消の場という点でも興味深いと思います。