実験で物理的に確認された
「情動➝脳マップ➝感情」の流れ
ダマシオの叙述は多岐にわたります。「情動は身体という劇場で演じられ」、と書き、「情動状態のあとに感情が表れる証拠」をあげていきます。まず、以下の仮説を述べます。
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感情が生じると、身体各部からの信号を受けて現在の有機体の状態をマップ化している脳領域が、いちじるしく活性化することになっていた。そのような脳領域は中枢神経系(脳)のいくつかのレベルに置かれており、帯状皮質、二つの体性感覚皮質、視床下部、そして脳幹蓋(脳幹の背側部)にあるいくつかの核、などがそれにあたる。(135ページ)
この仮説をPETなどで被験者を使い、検証していきます。そして期待どおりに活発・不活発の脳のパターンを得ることができました。
情動を感じることは身体状態のニューラル・マッピングの変化と関係しているという発見はじつに満足に値するものだった。(略)感情の生理の謎のいくつかが、脳の身体感知領域の神経回路の中で、そしてそれらの回路の生理的・化学的作用の中で解決しうることを、われわれにはっきり教えてくれた。(141ページ)
さらに、もう一つ重要な発見があったのです。
問題の経験がはじまったことを示そうと被験者が手を動かして合図する<前に>、電気的なモニター装置が、情動の激しい作用を明白に記録していたのだ。(略)「まず情動状態ありき、感情はそのあとに」ということに対するさらなる証拠を手にした。(141ページ)
情動→脳マップ→感情の順番が物理的に確認されたわけです。
ダマシオは「感情移入」という現象のメカニズム解明にも挑みます。感情移入は「脳が特定の情動的身体状態を内的に模倣」することです。自己の知覚ではなく、他者から聞いた話などによって脳が模倣する仕組みです。
このような感情を生み出すための想定メカニズムは、私が「仮想身体ループ」(as-if-body-loop)機構と呼んできたものの一種だ。それは脳による内的な模倣で、それが現在の身体マップを急激に変更する。これは、たとえば前頭前皮質や前運動皮質のような特定の脳領域が、身体感知領域に直接信号を送るとなされる。(158ページ)