Photo by Yoshihisa Wada
2025年3月、山梨中央銀行はしずおかフィナンシャルグループ(FG)傘下の静岡銀行、八十二銀行(現八十二長野銀行)と包括業務提携「富士山・アルプス アライアンス」を締結した。しずおかFGがアライアンス先の名古屋銀行と経営統合で基本合意したことで、この提携も再編の布石とみる向きがある。だが、山梨中央銀行の古屋賀章頭取は、他行との経営統合について「選択肢にない」と断言した。足元では、県内の信用金庫・信用組合と連携協定「やまなし地域金融ネットワーク」を締結し、積年のライバルとの共存戦略を進める。長期連載『金融インサイド』内の特集『地銀再編サバイバル 売れ残り回避の最終戦』の#14では、山梨県唯一の地方銀行が描く山梨・東京戦略と、“1県1行”体制の意義について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
リニア開業へ向け「人を覚醒させる」
大型アライアンスの裏で貫く独立路線
――昨年から始動した中期経営計画で、重点的に取り組んでいることは何ですか。
まずは企業の強靱化です。山梨強靱化とほぼ同じ意味ですが、企業が強くなり、雇用を増やし、生まれた収益が地域に還元される。この循環がベースになるため、企業の強靱化を一番に据えています。
次に、都市開発とまちづくりです。リニア中央新幹線の開業はまだ先ですが、今のうちから「山梨に立ち寄る必然性」をつくり、人を呼び込む必要があります。プロジェクトチームを立ち上げ、県や周辺市町、関係者とのつながりを深めています。
もう一つは、昨年立ち上げた地域総合商社でもテーマにしている観光です。山梨には、景観の良さや圧倒的な没入感のある自然など、まだ引き出し切れていないポテンシャルがあります。観光にとどまらず、「山梨に住みたい、働きたい」と思ってもらえる地域としての価値をどう高めるかが重要です。
これを進めるには、まず人を覚醒させなければいけません。金融業だけではなく、商社的な動きやまちづくり、都市開発ができるよう視座を高めてもらう必要があります。
――「人を覚醒させる取り組み」とは何でしょうか。
中計を開始したタイミングで、バリューを設定するなど具体的な取り組みを加速しています。
その一つがジョブトライアルです。特に若手行員には、特定の業務しか経験していない人も少なくありません。そこで、「銀行には、幅広く奥深い仕事が幾つもある」と知ってもらうため、本部の各部署が希望者を募り、他部署の業務を体験できる機会を設けています。実際、部署の垣根を越えて参加する行員は増えています。
――銀行では行員の専門性を高めるため、一つの部署により長く在籍させるような人事制度改定も見られますが、山梨中央銀行はさまざまな部署を経験させる方向ですか。
「自分の適性はここにしかない。これが銀行で生きる道だ」と、あまり早い段階で限定させないことは大事だと思います。
私自身、同じ部署に長い間、塩漬けにされた人間です。いろいろな部署を回りながらキャリアを築く方が、組織としても健全ですし、新しい発想も出てきます。
――自前では足りない外部人材の取り込みや外部との提携は、どう進めていますか。
キャリア採用はかなり増えました。地域総合商社を立ち上げて「こんな面白いことに取り組んでいます」と発信したところ、さまざまな経歴の人材が入ってきています。
外部とのアライアンスも、その延長線上にあります。最初に大きく動きだしたのが、静岡銀行と2020年に締結した包括業務提携「静岡・山梨アライアンス」でした。
昨年は、ここに八十二銀行(現八十二長野銀行)も加わり、「富士山・アルプス アライアンス」が発足しました。外とつながり、互いに出すものは出しながら、良いところを取り入れていく。非常に大事なことです。
――静岡銀行の持ち株会社であるしずおかフィナンシャルグループ(FG)は、別のアライアンス先だった名古屋銀行と経営統合で基本合意しました。山梨中央銀行もアライアンスを結んでいますが、他行と経営統合に踏み切る選択肢はありますか。
次ページでは、古屋頭取が他行との経営統合の必要性を「全く感じていない」と言い切る理由に迫る。約10年前まで繰り広げられていた地元信金・信組との“不毛な争い”に終止符を打ち、協調へとかじを切った背景とは何か。さらに、明治期から続く東京戦略の勝算から、乱世の地銀トップに求められる資質まで、独立路線の裏付けを惜しみなく明かす。







