「この人が今日から代表になります」
突然の転売に困惑
誠美工業所について取材を進めていると、M&A仲介会社の幹部が、私にこう耳打ちした。
「マイス社が誠美工業所を買収した後は、マイス社の社長(当時)が誠美工業所の代表取締役に就任しています。でも変なのは、マイス社の社長は約4カ月で退任し、その後は別の人物が代表取締役に就任しているんです」
会社の登記簿を確認すると、確かにマイス社による買収から約4カ月後の2024年12月18日、マイス社の社長である田端氏と入れ替わるように別の人物が代表取締役に就任していた。ここでは工藤悟氏と仮名で表記する。
三浦氏は、こう証言している。
「12月18日、急にマイス社に呼び出されたんです。指定された場所は小さな貸し会議室でした。そこにマイス社の人と、知らない人が2人いたんです。それが工藤と熊野浩志(仮名)という人でした。そこでマイス社から工藤について『この人が今日から代表になります。田端社長は今日付けで退任です』と紹介されました」
唐突にそう宣言された三浦氏は、「気が動転して、わけが分からなかったです」と話す。
工藤氏と熊野氏は、三浦氏がマイス社に対して起こした訴訟で、被告となっている。
新たに代表となった工藤氏について、それらの訴訟資料や会社登記簿を中心に調べてみると、全国で少なくとも9つの企業の代表に就任している事が分かった。業種は建設やIT、宝石・貴金属の販売業など、多岐にわたっている。
また同様に熊野氏についても調べてみると、不動産取引などを手がける複数の企業の取締役や代表に就任していた。
訴訟資料の中には、熊野氏が代表を務める会社に対しては、誠美工業所とその子会社から6465万円が送金されたことを示す表があった。誠美工業所から流れ出た資金の合計は1億1989万円とされている。熊野氏の会社への送金額は、その約半分ということになる。最大の送金先だ。
まず、熊野氏が何か事情を知っているのかもしれないと考え、取材を試みることにした。
本店所在地はラブホテル
熊野氏が代表を務める会社の本店住所は四国某所にあり、登記簿によると「ホテル、旅館の経営」を主な事業内容としていた。
インターネットで住所を調べると、その場所には確かにホテルがあったが、それはいわゆるラブホテルのようだった。現地で話を聞けば何か分かるかもしれないと考え、四国へ飛んだ。
しかし、そこにあるはずのラブホテルは跡形もなく、更地にショベルカーとトラックが数台停まっていた。
近くのコンビニエンスストアの店員はこう話す。
「あそこは確かにラブホでしたよ。でも、いつの間にかなくなっちゃいましたね。繁盛していたか? いやあ、分からないですよ」
誠美工業所から熊野氏の会社へ送金された6465万円は一体何だったのか。その後、熊野氏の関係先とみられる複数の住所に取材依頼を送付したが、彼が取材に応じることはなかった。
(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』(ダイヤモンド社)を抜粋・編集した記事です)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社刊)が好評発売中。
Key Visual by Kaoru Kurata, Kanako Onda







