前期の大学院での授業で、最も衝撃的だったのは、コーポレートファイナンスの授業で登場した「マーケットリスクプレミアム」の推定に関するものであった。それは、あるファイナンスの学会で、アメリカの学者が米国のリスクプレミアムは2.46%という発表をしたという内容で、もしこれを米国企業が受け入れれば、今後行うM&A案件の金額は今までよりも割高になる。逆に言えば、今までのM&Aのほとんどは、買い手にとって超お買い得な案件であったということになる。
「マーケットリスクプレミアム」とは?
株式投資家が株式に投資をする際、国債よりどの程度高いリターンを要求するか?その数値を「マーケットリクスプレミアム」と呼ぶ。たとえば、国債投資からのリターンが2%で、マーケットリスクプレミアムが5%なら、株式投資家は7%のリターンを求めることになる。
これら数値は、企業ファイナンスの分野では、将来キャッシュフローの現在価値を求める際、すなわち企業価値算出の際に重要となる。具体的にはこれら数値が割引率の構成要素となるのだ。
企業価値や事業価値を算出する際に、将来キャッシュフローを予測して、それの現在価値の合計を求める手法(DCF法)が企業の現場でも頻繁に利用されるようになって久しい。現在価値の算出で鍵となるのは、割引率の設定である。企業のキャッシュフローを割り引く場合は、その企業の資金調達コスト(資本コスト)で割り引くことになる。借入金の金利が3%で、株式投資家の求めるリターンが7%であれば、その2つの加重平均が割引率となる。こう書くと簡単であるが、割引率の設定で難しいのは、株式投資家の求めるリターンが分かりにくいという点にある。
有利子負債のコストは、日々銀行から要求される利息ですぐに計算(代替)できる。あるいは格付が分かれば、国債に対して格付に見合うスプレッドを上乗せすれば負債コストはすぐに計算できる。しかし、株式資本コストの場合は、そのような明確に国債に対してどの程度の上乗せリターンを要求するかに関して利用可能な外部情報がない。
先に現場の話をしてしまうと、実務の現場では東証上場の日本企業のマーケットリスクプレミアムは「5%程度」を用いることが多い。つまり、日本の株式市場では、国債よりも5%ほど高いリターンが求められるということになる。5%という数字をどうやって導出するかに関してはいくつか方法があるが、たとえば、過去30年間のTOPIXや日経平均の年率リターンと国債利回りを比べる方法など挙げられる。