「組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある。天才に頼ることはできない。天才はまれである。あてにできない。凡人から強みを引き出し、他の者の助けとすることができるか否かが、組織の良否を決定する。同時に、組織の役目は人の弱みを無意味にすることである。要するに、組織の良否は、そこに成果中心の精神があるかどうかによって決まる」(『マネジメント──基本と原則[エッセンシャル版]』)
人間は多様である。しかも、でこぼこした存在である。あることを得意とし、あることは不得意とする。得意なことを伸ばすのは簡単だが、不得意なことを直すのは至難である。そこで不得意なことを意味のないものとし、得意なものを引き出して組み合わせることが必要になる。
ところが、組織の中に、何事も成果を中心に考え、行動するという成果中心の精神が根付いているならば、人びとの得意なことだけを組み合わせるという手品が、いとも簡単に行える。
成果中心の精神を持つための方法は簡単である。第1に、あらゆることの焦点を成果に合わせることである。第2に、あらゆることの焦点を機会に合わせることである。第3に、人事は真摯さを絶対の条件として行うことである。
ドラッカーは、実例をもって教える。かつての帳簿係が組織の成長に伴い、50歳で経理担当役員になったものの、仕事をこなせなくなった。人は変わらないのに、仕事が変わった。だが、ずっと真摯に働いてきた。
ドラッカーは、そのような真摯さに対しては、真摯さをもって報いなければならないという。ただし、担当役員のままにしておいてはならない。仕事上差し支えがあるだけではない。士気を低下させ、マネジメントへの不信をもたらす。
だが、退職させるのも間違いである。正義と礼節にもとる。
「成果中心の精神を高く維持するには、配置、昇給、昇進、降級、解雇など人事に関わる意思決定こそ、最大の管理手段であることを認識する必要がある。それらの決定は、人間行動に対して数字や報告よりもはるかに影響を与える。組織の中の人間に対して、マネジメントが本当に欲し、重視し、報いようとしているものが何であるかを知らせる」(『マネジメント[エッセンシャル版]』)