「独立系投資信託会社」といえば、証券会社や銀行などの系列ではなく、さらに主に販売会社を通さず自分たちで投資家に対して直接、投信を販売している会社のこと。このスタイルでは主にさわかみ投信が有名ですが、その次に個人投資家から支持されているのが、セゾン投信です。そして、その旗艦ファンドともいうべき「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」には、ファンド名にもあるバンガード社のファンドが組み入れられています。

このバンガード社とは、実は世界最大級、アメリカで資産残高第1位。1兆8051億米ドルもの資金を保有し、2位のフィデリティの倍以上の資金を預かり、運用しています。今回から3回にわたって、このバンガード社の日本法人である、バンガード・インベストメンツ・ジャパン代表取締役の加藤隆氏と、セゾン投信代表取締役の中野晴啓氏が、長期投資にかける気持ちを、思う存分語り合います。

セゾン投信の口座数が
6万口座を突破

加藤 セゾン投信の口座数が6万口座に乗せたそうですね。

中野晴啓(なかの・はるひろ) セゾン投信株式会社 代表取締役社長。公益財団法人セゾン文化財団理事、NPO法人「元気な日本をつくる会」理事。1963年東京生まれ。1987年明治大学商学部卒、クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社にて資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか、外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、(株)クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代中心に直接販売を行っている。また、全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動を続けている。『運用のプロが教える草食系投資』(共著・日本経済新聞出版社)、『20代のうちにこそ始めたいお金のこと』(すばる舎)、『30歳からはじめる お金の育て方入門』(共著、同文館出版)、『年収500万円からはじめる投資信託入門』(ビジネス社)ほか多数。

中野 お陰様で。ちょうどセゾン投信がスタートして5周年の時に5万口座を達成して、それから1年半。少し時間はかかってしまったのですが、8月28日に6万口座を達成できました。現在、運用されている2本のファンドの純資産残高を合計すると、737億7000万円(8月末現在)です。

加藤 日本の投資信託業界はどうしても販売金融機関の意向によってファンドが作られているだけでなく、販売金融機関の力でファンドの資金を集める傾向があるのですが、そのなかでセゾン投信は直販というスタンスを貫いている。苦労もあると思いますが。

中野 そうですね。ただ、大勢の受益者の方からの支持を得ることができて、何とかここまで来たという感じですね。純資産残高を口座数で割っていただけると分かると思うのですが、1口座あたりの平均純資産残高は121万円です。既存の証券会社などの販売会社からみたら、少ないと思われることでしょう(笑)

 でも、そういう小口だけれども、じっくり長期的な視点で国際分散投資をしていこうという意思の強いお金が集まっています。この点は非常に心強いですね。あとは、やはり世界的に有名なバンガードのブランドを冠したファンドを扱っているというのも、弊社の強みです。

加藤 褒めても何も出ませんよ。

中野 いえいえ。でも、私がセゾン投信を立ち上げるにあたって、どんなファンドを運用したいのかと考えた時、真っ先に浮かんだのがバンガードだったのです。バンガード社といえば、徹底的な低コストを追求したインデックスファンドを運用していますし。アメリカの投資信託をよく知っている人は、インデックスファンド=バンガード、アクティブファンド=キャピタル(アメリカンファンズ)、とすぐにイメージすると思います。

 バンガードも、銀行や証券会社の系列ではない独立系の運用会社で、なおかつ証券会社などの販売機関を通さずに販売する直販ですよね? 初めからそのスタイルでスタートしたんですか?

加藤 バンガードの歴史を話し始めると、これはもう本当に長くなるし、ドラマティックなストーリーもたくさんあるんだけれども(笑)米国のバンガードというのは、ジョン・ボーグルというインデックスファンドを考えた人が立ち上げた運用会社です。

 今では運用資産の規模で世界一の運用会社なのですが、会社を立ち上げた当初は、本当に苦労したんですよ。

世界最大級の運用会社でも
最初の7年は資金が流出を続けていた

中野 その話には興味ありますね。今や世界一の資産を誇ると言われている運用会社にも、大変な時期があったと。

加藤 そう。バンガード社が出来たのは1975年だから、かれこれもう40年近くになるのですが、その当時、すでに純資産残高で25億米ドル(2500億円)程度あるファンドを運用していたんですよ。で、ジョン・ボーグルさんはバンガード社を理想の運用会社にしたいと考えて、まずインデックスファンドの運用をスタートさせました。で、これが慧眼だと思うのですが、1977年には直販をスタートさせたんですよ。

中野 直販からスタートしたのには、何か理由があったのでしょうか。

加藤 日本と同じですよ。結局、販売金融機関にファンドを売らせると、どうしても手数料の高いファンドをすすめたり、手数料収入の最大化を目指して、短期売買に顧客を誘導するインセンティブが働きがちです。当然、それは投資家の手数料負担を増やすし、ファンドの運用にとっても良いことではない。ということで、バンガード社は直販をスタートしたのです。

中野 なるほど。その状況は日本とあまり変わらないのですね。販売金融機関がファンドを販売すると、短期売買の指向が強まる……か。それでバンガード社がスタートしてからのビジネスは順調だったのですか。

加藤 とんでもない。それはもう苦労の連続だったと聞いています。さっき、バンガード社がスタートする時点で、預かり資産が25億米ドル(2500億円)ほどあったと言いましたが、会社をスタートさせてからというもの、ずっと資金流出が続いたのです。何と80ヵ月連続ですよ。約7年間ですね。約6億米ドル(600億円)まで減ってしまいました。そして、ようやくそこから資金純増に転じたそうです。

中野 う~ん、約7年間も資金流出が続いたのですか。僕だったらプレッシャーに潰されそうです。

加藤 実際、ボーグルさんも、さすがに途方にくれたそうですよ。でも、彼には確たる信念があったのでしょうね。新しい時代の投資信託はインデックスファンドであり、それを直販で販売することが、投資家のためになるということを確信していた。その信念が非常に強かったので、逆境にも耐えることができたのだと思います。

中野 なるほど。その厳しい状況にあったバンガード社の資金流出が止まり、増加に転じた背景にあったものは何だったのでしょうか。